表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女の棲む森  作者: 千咲
10/10

10話 外の世界

ガバリとアルバはベッドから起き上がった。


時刻は真夜中なのか、屋敷の中は真っ暗で静まり返っている。風が強いのか、窓の外からビュオッと変な音が聴こえてきて不気味だ。


額に浮かぶ冷や汗をアルバは手の甲で拭いながら静まらない動悸を整えようと深呼吸を繰り返した。背中までじっとりと汗をかいていて気持ち悪い。



「夢、」



落ち着かない動悸を必死に沈めようとしながらアルバは先ほど自分が見ていたものを思い出す。


夢なのは確かだった。夢の中でアルバはあれが夢だと自覚していた。しかし。本当に夢だったのだろうか?なにもかも鮮明で、幻想的だったあの世界。夢で間違いないはずなのに、夢だと思えない自分にアルバは混乱する。


湖の底で眠る魔女。崖から身を投げ出した少し違う魔力を持った魔女。


二人は、どんな関係だったのだろう?どうして、あの魔女は崖から身を投げ出したのだろう?


アルバは掌に痛みを感じ、視線を落とした。どうやら知らぬ間に強く握りしめていたせいで爪で傷つけてしまったらしい。うっすらと血が滲んでいる。


瞼をおろし、もう一度先ほど見てきた場面を思い起こしていく。記憶に残っているものはどれもこれも変わらず鮮明だった。そしてやはり違和感があった。


ゆっくりと一つ息を吐き出し、夜明けを待つまでアルバは再びベッドに横になった。




夜が明け、フランはアルバをお越しに寝室へと行くとアルバは既にベッドに腰掛けて窓のを見つめていた。窓から差し込む朝の光にアルバの黒髪がキラキラと反射して見える。フランはまるで有名な画家が描いた絵画を見ている気分になった。



「アルバ。」



声をかければアルバはこちらへと振り返り、「おはよ。」と呟いた。どこかほっとしたように見えたのはフランの気のせいではないだろう。



「おはよう。悪い夢でも見たのか?」



フランはアルバに近寄りながら聞く。どうやらその質問は核心をついていたらしく、アルバは俯いてしまった。



「ねぇ、フラン。」

「ん?」



意を決したようにアルバは顔を上げた。アルバの表情を見て、フランは息をのんだ。珍しいと思ったからだ。アルバが無表情ではなく、ちゃんと表情を浮かべていることが。


アルバは悲痛な表情を浮かべながら、戸惑ったように口を開いた。



「この世界には…本当にあたししか魔女はいないの?」

「…どういうことだ?」

「あたし以外に魔女がいた、とかそういう話って聞かない?」



フランは顎に指先を添え、思考を巡らせた。心当たりはいくらでもあった。



「今から何万年も昔、魔女…魔法族があったと歴史書には書かれている。」

「魔法族?」

「ああ。人間も魔法族と共に一度滅びたが、神がまた再び人間を作り出したと言われている。魔法族がまだ生きていた時代の歴史書も残っているからそれは間違いないと思う。」



アルバはフランの話を聞き、再び黙り込んでしまった。一体突然どうしたというのだろう。


先ほどフランがザックリとアルバに話した通り、この世界の人類と呼ばれる人間と魔法族は一度滅びている。それは人間たちが時が経つにつれてどんどん利口になり、自然界のことを考えずに生活をしていたため、神の怒りを買ってしまったせいだと言われている。神の手によってこの世界の人類は滅ぼされているが、神は再び人間を生み出した。どうして神が再び人間を生み出したか定かではない。そして、神はなぜか魔法族を再び生み出すことはなかった。この世界の再生期については未だ、たくさんの学者たちが論争を繰り広げているのが現状だ。



「フラン。」



アルバは意を決したようにアルバを見上げた。瞳を潤ませたアルバにフランは不覚にも胸をときめかせた。フランからの位置だと、アルバが上目遣いでフランにおねだりするかのようにに見えてしまったのだ。速くなり鼓動にそんなはずないとフランは自分に言い聞かせた。


フランは高鳴る鼓動をアルバに気付かれぬように「なんだ?」と極力普段通りの声音聞いた。


「あのね、外に、出たい。」

「外?」

「うん。」



そんなはずない、と思っていたがおねだりはあながち間違いではなかったようだ。高ぶる気持ちを沈めようと必死になっていたというのに、この娘は。見え隠れする自分の下心にフランは呆れた。もしかしたら、初めて会ったあの瞬間に魔法をかけられたのかもしれないとらしくないことを思いつつ、フランはアルバの"お願い"に対する返答を考える。


アルバを外に出すことは特に問題はないと思う。記憶のないアルバにフラン以外に庇護されるような人間がいるとは思えない。だが、万が一ということもある。


ううむ、と悩むフランを見て、アルバは不安になった。ぎゅっと力強くワンピースの裾を握りしめる。


フランの考え通り、アルバにとって現在頼れる存在はフラン以外いなかった。記憶もないのに加え、アルバは自分の立場を理解している。フランのことを信用しているのだ。彼しか、アルバには頼れる存在がいない。


胸の内をお互い打ち明けてからというもの、フランはアルバに対し、やさしくなった。人の温かさを知らないアルバは、フランのやさしさをとても心地よく感じているのだ。


だから、そんな彼が自分のことをまだ信用出来ない部分があると思われていることに胸が痛むのだ。



「駄目?」



俯きながら考えるフランの顔をアルバは下から覗き込んだ。沈めようとしていた心臓が一際大きくドキリと高鳴る。勘弁してくれ。


フランははぁと息を吐き出した後、折れた。



「わかった。俺もついてく。」

「フランも?」

「念のためな。俺の立場も考えてくれ。」

「…わかった。」



アルバはなんとも言えない気分のまま頷いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ