36 聞こえてますか~
「あたし今日は講義なくて暇なの。だからあたしも大聖堂についていってあげるねー」
そういえば、ソニンちゃんは2日間謹慎中という事だった。
「はぁ。まあいいですけど」
「僕も聞きたいし、ついていくよ」
シリウスは興味本位かもしれない。
「じゃあ、お兄ちゃん、早く行こうよー」
「まあ、そんな急かすなって」
シエラはいつもの調子だ ――って、おい!
――刹那、声の出どころへ思わず振り向いた。
シリウスもぎょっとしている。
「シエラ! 何でお前がここにいるんだ」
「何でってたまにはいいでしょ?」
「そういう事じゃなくて」
シエラがいつのまにか俺達にくっついてきていた。
全く気付かなかった。
いつの間に隠密のスキルなんて持っていたのか?
「えーと、あなたはもしかしてユーベル君の妹さんのシエラちゃん?」
「はい! ソニン先生ですよね? 兄がいつもお世話になっています」
「ちょ! ちょっと何この超スーパー美少女は! こんなの反則でしょう。兄も兄なら妹も妹って事なのー!? 持ってるもんが違い過ぎるわー。こんな金髪美少女見た事ない」
そうだろそうだろ。
「ところでシエラちゃん、どうしてここにいるの? リーゼやマリーナには会った?」
「はい。お兄ちゃんの部屋行ったら留守でリーゼさんのところ行ったら、ちょうど授業が始まるところ急いでいたみたいなので思わずお忍びでついてっちゃいました。面白かったです。土魔法の授業」
「そうかぁ? 土魔法って地味だから受講生徒少ないみたいだぞ。 ――っていやいやそんな事を聞いてるんじゃない。何故お前がここにいるんだ?」
「実はね、おとといくらいにちょっと何か胸騒ぎがしたんだ。何かお兄ちゃんに魔の手が伸びてるみたいな……」
ただ単に俺に会いに来たわけじゃないとは思ってたけど。
「魔の手は伸びてないが、俺の謎魔力の解答的な手は伸びてる気はするな」
「それでね、ごめんなさい、聞くつもりはなかったけど、聞こえちゃったんだ。応接室の話」
いや、聞く気満々だったろう。
「だからと言ってお前まで来る必要はないと思うけど……」
『わたくしが呼んだのです』
どこからか響く女性の声。
この空間全体に反響しているような不思議な声だ。
声の主の姿は見えない。
しかしこの透き通るような女性の声。
どこかで聞いた事がある。
あったはずだ。
――まさか?
俺とシエラは顔を見合わせた。
どうやら同時にシエラにも伝わっているようだ。
『今、わたくしはあなた方の脳内に直接語りかけています』
「二人ともどうかしたの? 兄弟でじっと顔何か見合わせちゃって。カッコよすぎ、可愛すぎっていうのならもう重々あたし知ってるよー」
どうも聞こえているのは俺とシエラだけらしい。
何故今更?
どうしてもそう思う。
彼女は転生後ずっと俺達を見てきたんだろうか?
何かそういう想像すると気持ちはよくない。
釈然としない。
『聞こえますか? 聞こえますよ……ね? 聞こえて……ない?』
あの凛々しい女神様からこのネタ的な呼びかけを受けるとは、思いもよらなかったけど、間違いない。
俺が死んだ時に会ったあの女神様の声だ。
俺はシエラと顔を見合わせたまま、どうにも声が出せない。
『あのー。今、わたくしはあなた方の脳内に直接――』
「頭がキーンとするんで止めて!……脳内に直接とかって普通絶対言わないよー」
「シエラ。言ってる言ってる」
『フゥ』
安堵の声が聞こえた。
どうでもいい答えでも返答があったからだろう。
『ユーベル様、あなたが、わたくしが適当に授けた能力をまさかこれほどまでに使いこなせるとは思ってはいませんでした。そして、もはやないはずの魔法適性の解析にまで辿り着く可能性が高い。これはあり得ないほど素晴らしい事です』
「イマイチ、言ってる意味が分かりません。女神様はどうして俺達に語りかけているのですか?」
『わたくしはあなた達の異世界への順応力、それに自らの努力で咲かせた魔法の才能に魅せられてしまったのです』
「魔法の才能? シエラはともかく俺には……」
『わたくしはユーベル様に無限の魔力のみ授けました。それをこの世界の魔術状況に見事に組み込んで利用している事が既に驚愕なのです。わたくしの予定では、お二人とも、魔法の才能には一切気付かず、静かで平穏な第2の人生を送って頂く事になっていたのです』
「それは、たまたまオベールさんのフライング魔法診断と、父さんに殺されかけたからで……」
「お父さんに殺されかけた?」
あっ!
やべっ!
『シエラ様、落ち着いて下さい。お父様はユーベル様を殺してはいません。正確には、真っ二つにする寸前だったので』
まあ、今生きてるしな。
「今お兄ちゃん生きてるから、それはいいにするけど、帰ったら、お父さんフルボッコだな」
『そう言う凄い才能を持ったお二人なので、どうしてもお伝えしたい事があったのです』
「まだ俺の能力が安全だとか決まったわけじゃありませんよ?」
『分かっております。だから、今から大司祭様とやらにこうやって皆でお聞きしに行くのですよね』
「ねーねー、さっきから、二人だけで誰とお話してるのー?」
「僕とソニンちゃんには、聞こえてない何かかな?」
――刹那、空間が歪んで捻じれたかと思うと、そこからひょっこり顔を覗かせた女神様がいた。
「――お待たせしました。シリウス様にソニンちゃん様。わたくし女神でございます」
「白猫!? 猫がしゃべった!」
「顕現が許されるのは、この姿だけですので」
「脳内に直接とかでもううんざり頭が痛くなっていたから、猫でいいよ、女神様は」
シエラ投げやりだな。
「簡単に言うと、俺の能力が安全か否かで、女神様が俺とシエラに何か言う事があるようなんだ」
「だったら、大司祭様に話聞いてから現れても良かったんじゃないのー?」
「――すみません。待ちきれなかったもので」
「でも、絶対こんな空前絶後の能力だよ。寿命を削るとか、絶対それなりの代償があるはずだよ。まあだから、アカデミー入ったのだけどね」
そして、結局大司祭様に聞いた答えは、
「代償? そんなもんないわい」




