33 野外授業
王国アカデミー入学後、一か月がたった。
武術専攻の必須科目は、アカデミーらしく座学から始まり、各自イメージしたスタイルを実戦に移していくというものだった。
この必須科目に関しては、俺は父さんのスタイルを取り入れている為、授業はあまり参考にはならなかった。
貴族スタイルの優雅な剣劇ではいざ実戦となった時に、形が崩れるだけで右往左往することになってしまうからだ。
生徒同士の稽古ではどうしても本気度は欠落し、集中力も散漫になる。
ということで、ここ数年は武術専攻組は野外活動と称して、近くの森で魔物狩りに出る事もあった。
卒業後の進路がほぼ戦闘関係になる事を考えると、当然の事かもしれない。
ただし、武術専攻の1回生は約80名いる。
この人数での野外活動は建設的ではない。
中等部ではある程度の野外活動が行われていたが、高等部からの編入組は実戦が皆無である。
それを考慮し、しばらくは編入組約20名のみでの野外活動が行われることになった。
今日はその初日だ。
この野外活動の日は、他の授業より優先され終日の予定だ。
俺も稽古と実戦は、全く別物であることをもう何度も身をもって体験していた。
父さんに師事していた時は、父さん自身に半殺しにされた事も多々あった(うち一度は胴真っ二つ未遂)が、それは実戦を意識していたからだと思われる。
それを踏まえ、いざ魔物狩りに初めて出た時は、やはり警戒心がオーバーし、集中力が途切れ途切れになることも多く、小一時間で倒れこんでしまうほどだった。
初めての魔物と対峙すると、こうしよう、相手がこうきたらこう切り返そうと想定はしていても、得てして状況はその通りにはならず、イレギュラーばかりだ。
こればかりは実戦を積むしかないとのことで、俺が12歳要は貴族学園では中等部にあたる歳になってからは、ほぼ一人で森の最深部まで出向き、大物を狩りに出る毎日だった。
「小賢しい魔物は死ぬまでくらいついてきやがるからな。とどめを刺すまで気を緩めるな。これからは俺を魔物と思え」
そんな事を毎日念仏のように唱えられた覚えがある。
今思えば、それも大袈裟ではなかったと思い知っていた。
それぐらい実戦の経験は重要だった。
「僕は野外活動、実戦は初めてなんだ。貴族の悪い所なんだろうけど、この歳まで自然の魔物と命をかけた戦いなんかしたことがないから、膝が震えるんだ」
「大丈夫。それは武者震いだ。シリウス、俺が単に毎日君との稽古を端的にやっていただけだと思うな。
実戦は確かに違うけど、そこらの魔物より俺の方が手強かったはずだ。それに俺は一度も君に対して手を抜かなかった。君は命懸けでそれに耐えていたんだ。泥臭くても何でもいい。生き残れ」
父さんの受け売りはあるものの、どうしても最高の友人の一人であるシリウスに伝えておきたかった。
「やはりユーベル君、君は凄いよ。本当に君の友でいられてよかったとしみじみ思う。自分なりに頑張って、他に苦しむ者がいれば手を差し伸べていこうと思う」
大丈夫。
君は自分が思っている以上に強い。
「じゃあ、編入組のみんな集まってー。ちゅーもーく!」
聞き覚えのあるキャピキャピした声が聞こえた。
あれ?
何か教師がごめんこうむりたい授業に優先的にまわされてる可哀そうな先生って感じがやはりするんだが、彼女がそこにはいた。
何故、武術専攻の授業にいるのかは分からないが。
「あたしが今日の担当教師よー。ソニンちゃんって呼んでね」
やはりよーく見ると、魔女っ子の恰好が可愛い。
お化粧も大好きなようでチークなんかが絶妙だ。
童顔も手伝って意外にケバさがない。
だが、シエラには真似してほしくない。
「あら? ユーベル君にシリウス君。今日はよろしくね。多分必然的に君達に頼る事になっちゃうと思うから」
不敵な事を言っている。
「はい! ソニン先生頑張ります」
「それちがーう」
「はい! ソニンちゃん頑張ります!」
「シリウス君、期待してるからねー」
シリウスはやる気らしい。
「今日は一日、時間をもらっていまーす。アカデミー裏の迷いの森の中腹部まで潜っていくよー。ここは中等部での1泊2日での野外活動でも行かないところだから、気をつけようねー」
確かに編入組は選りすぐりの武闘派だ。
だが20名をたった一人魔女っ娘教師がめんどうみられるのだろうか?
しかも中級者向けだという森だ。
「シリウス君、地図を渡しておくからまず君が先導をお願いねー。ユーベル君はしんがりを。他のみんなは中腹までは体力を温存しておいてねー」
任されたからには仕方ない。
確かにソニンちゃんからしても勝手の分かった俺達への指示が適任なのだろう。
多分、彼女は闇魔法の選択科目だけで俺とシリウスの性向まで掴んでいる。
やはり只者ではない。
森に入ってしばらくは、沢山の探索道があり、日常的に人の手が入っている様子が見受けられた。
このあたりに生息する魔物はパッシブという扱いで、凶暴性がなくこちらから手を出さなければ、無害なのでとりわけ駆逐の必要はない。
一角ウサギや、モフモフのエレキャットなどでまあ可愛い。
あらかじめ生徒達もパッシブモンスターはあらかじめ把握しているようで、いきなり戦闘態勢に入ることもない。
ただ警戒は解かない。
さすがだ。
2時間程度の散策で、中腹と思われる辺りまで進んだ。
さすがにここから先は人の入った痕跡はなくなり、獣道がある程度みてとれるだけだ。
周囲の木々も入り口付近と違い、高い物ばかりだ。
先導のシリウスが右手で後続を制した。
どうやら、パッシブではない魔物の音を聞き分けたらしい。
ここからが本番だ。
実りのある授業になればいいのだが。
「みんなー。相手は鼻の利く魔物よー。各自2メートルほどの間合いを確保してね。弓が主武器の女の子達はユーベル君の後ろに移動。剣と槍が主武器の白兵得意のゴリラ君たちは、シリウス君と平行に並んで」
「5頭いますね。ジャイアントボア……でしょうか?」
「さすがね、あれはね、今まで何度か致命傷を負った生徒が過去いたそうなのよー。動きは単純だけど、油断は禁物なのよ」
ただイノシシだけあって頭は弱い。
鼻で俺達の気配は察知しているものの、5頭揃っての正面突破しか能がないようだ。
5頭が横一線で揃って先頭の部隊へ突っ込んできた。
体長は4メートルほど。
よくイノシシ鍋に使われるワイルドボアを凌ぐ大きさだ。
はっきりいって凶暴、体躯は強い。
シリウス達先頭は耐えられるのだろうか?
「うーん、そうねー。いきなり5頭は意外だったわね。えーとー、ユーベル君、シリウス君、悪いけど君たちが一頭ずつ相手してねー」
そう言うと左端、右端の一頭ずつが足を止めた。
なんであんな馬鹿で脳のないイノシシを簡単に制する事が出来たんだ?
「あれくらい頭脳のない馬鹿なら目を合わせてくれなくても強制誘導できるの。思考誘導の上位互換ね。目的は金銀頭だけを攻撃しろ!」
やっぱ最悪の教師だった!




