借りたままのペン
一本のペンから、あの日々を思い出す。
何度もなぞった記憶のその先にあるものとは。
「鈴木さん、そのペンすごい色だね。」
同僚に声をかけられる。
私の手にある毒々しい紫と朱色が混ざったペンを見る。
「あぁ、これ。面白い色ですよね。高校の卒業式に借りたものなんです。借りパクってやつですかね。」
少し懐かしく疼く胸を抑えながら、そう答える。
「えーなになに。当時の好きな人だったり?」
「そういうんじゃないですよ。仕事に戻りましょう。」
そう言うと同僚は自席に戻って行った。
そうだ。好きな人だとかそういうのでは無いのだ。
これは私の愚かさと醜さを忘れない自戒だ。
「ねぇ、鈴木さん。これから1年よろしく。高校ってなんか思ってたより普通だね。」
隣の席になった加藤遥はそう声をかけてきた。
それが彼女との初対面だった。
「もう全然分からないよー!勉強するより神社で祈った方が成績上がるの早そう」
加藤遥はいつもこんな調子で私に話しかけてきて、友達が少ない私にはとてもありがたかった。
勉強が苦手な遥に私はテスト期間よく勉強を教えていた。
遥とは3年間クラスが離れても登下校を共にした。
「私、実花と一緒の大学に行きたいな。」
そう言ってきたのは高二の冬頃だった。正直言って私と遥には学力に大きな差があった。
だが、まだ時間はあるし私も遥と共に大学に行けたらと思う気持ちがあった。
「いいね、一緒に勉強頑張ろう。」
遥が私に追いつきたいと、一緒の大学に行きたいと言ってくれたのが何よりも嬉しかった。
それからの一年、予備校のない日は一緒に勉強をした。
遥の成績はみるみる上がっていった。
これなら二人で一緒の大学に入れるかもしれない。そう思っていた。
合格発表日。
冬が一段と寒さを抱え込んでその日はその年の初雪だった。
結果は私だけが、不合格だった。
遥は当日の試験で上振れ、合格した。
自分の受験番号を確認した遥が呆然と立ち尽くす私に抱きつき
「受かったよ。一緒に大学、いこう!」
そう涙目の遥が無邪気に笑いかけてきた。私は彼女を祝福することはできなかった。
卒業式の日も私は遥と上手く話せなかった。
あの日一緒に同じ大学に行こうと言ってくれた遥に合わせる顔がなかった。
卒業式の日、遥の卒業文集に一言欲しいと言われ私は遥のペンを借りて一言
『ごめんね。』
そう書いたのだ。
それから、ほかの友達に呼ばれペンを返すのを忘れていた。
結局私は浪人し、遥と同じ大学に入った。だが、遥と遊びに行くことは、もうなかった。
あの卒業文集に何を書くべきか答えが出た時には遥は地方の企業に就職し、私たちは今も会うことはない。
私は今日も、この意味不明なセンスのペンを使っている。
このペンは書き心地がいいのでしょうか。




