砂時計の最期
砂時計の最期
きらきらとここに降りしきる、黄金。
それはさらさらとした砂。雪のように降り、黄金に輝く。
そこに在る。自ら輝き、そして在るだけ。
一面の砂。でも、砂漠とは言い切れない。
ここは草が生えていない。砂漠なら、稀ではあっても生えている。
ここには、草は生えない。
ここは動物がいない。砂漠なら、稀ではあっても何かしらいる。
ここには、動物はいない。
砂漠は乾いている。砂で山が出来、小さなオアシスや井戸が貴重となる。
暑くて、風が強くて、夜は急に冷え込む。
ここは潤っている。水はない。風はない。飢えもしないし、空腹感もない。
朝も、昼も、夜も、ない。時間が流れない。
風がない。気温も、景色も変わらない。
俺はただ、ここで、永遠のときをここでさまよう。
俺はただ、ここで、永遠に歩き続ける。
ただ、じわじわと、精神崩壊をして自滅するのを待つだけ。
でも精神なんて、もう、とっくの昔に、壊れているのかもしれない。
もう、疲れた。
時間という概念がない。朝も昼も夜もない。年も取らない。水もいらない。空腹感もない。何もないから何も感じることもない。
何もない。あえて言うなら、砂。自ら発光する、黄金の砂。
砂漠特有のザラザラとした乾いた砂ではなく、
海特有の少し潤いすぎたような固まった砂ではなく、
サラサラとした柔らかい、砂。
命はこうしてる今も、坦々と薄れていく。
俺はただ、時が過ぎるのを待つ。
俺はただ、自分の死の時を待つ。
俺はただ、背を砂時計に預ける。
背にある砂時計。
ここにあるのと同じ砂が入ってる。
ただずっと静かに砂が落ちている。
金の砂はこれまた坦々と時を刻み続ける。
たぶんこれは、俺の時。
俺の、寿命とも言うべきもの。
何度も、壊そうとした。
でも壊せなくて、ただ、死が近づいて。
黙ってみているしかない。
見たくなくて、離れようとしても、
視界から外れず、
どこに行ったとしても、ついてまわる。
自分が移動してないのか、
時計が移動しているのか。
どっちかわからない。
でも、どちらにしても、俺に知る術はない。
そして、どちらにしろ、現実は変わらない。
目の前にある、砂時計。
目の前で俺の時を刻む。
それは、俺にとっては、
恐怖でしかなく、憎むべき対象でしかない。
恐怖を煽り、憎悪が積もる。
それでも俺は無気力に
無為に時間を過ごす。
一歩を踏み出すたびに何かを落としていくかのような、
一歩を踏み出すたびに何かから離れていくかのような、
たぶん、その『何か』は自身の感情。
だが、それがわかったとしても何も変わらない。
今は必ずあり、現状は変化することを知らしない。
砂時計にすべてを預け、目を閉じる。
ああ、もうすぐ、もうすぐだ。
もう、終わりだ。
もうすぐ、俺は、死ぬ すべてから解き放たれる。
もうすぐ、俺は、死ぬ すべてを失える。
もうすぐ、俺は、死ぬ 楽になれる。
もうすぐ、俺は、死ぬ 死ねる。
ああ、はやく、はやく、時が過ぎればいい。
この苦しみから、ようやく、解き放たれる。
まだ、まだなのか、
もうすぐ、ようやく、
俺は死ねる。
ああ、早くくればいいのに。
この時をどれだけ待ったか。
走馬灯という言葉がある。
俺にも当てはまるだろうか。
俺にも走馬灯が見えるかな。
あの、ここに来る前までの美しい日々
あの、ここに来る前までの楽しい日々
意識が遠い。視界が暗い。
ああ、ここで俺の夢がおわる。
ああ、ここで俺の夢がかなう。
ここが俺の出発点であり終着点
死ぬために刻まれる時間
終わること自体が俺の夢だから。
今までのことが、走馬灯のように、流れてゆく。
記憶が、すべてが、巻き戻されるよう。
ああ、生きてて良かった。
そう、思いながら死んでゆく。
今更ながらに思う。
いままで、ここにきてからずっと思うこと。
走馬灯のように、駆けていく。
そして、自身の身体が砂となり崩れていくのを感じる。
すでに腕が原形を留めず周りの砂と同化している。
今まで歩いていたのは俺自身だったのか、砂だったのか
今はもう、何もわからない。
ああ、今ここに俺の新世界が開く。
俺は、ここに夢を叶える。
俺は、死者になりたかったんだ。