9.吉備丸「最初から全力!」
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ヴァリアス平原の戦い
2日目 夜
曇り、やや風あり
魔王軍所属オーク兵 約500人
VS
ラーメン屋台『吉備丸』
店主:最上彦丸
勝利条件
◎500食分売り切ること。
◎レティシア陣営2種族の胃袋を満足させろ。
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「昨日より増えてない!?」
「影分身は2回目以降、1人につき金貨1枚――まぁギリなんとかなるな」
残った金貨投入して、3人の俺と3台の吉備丸。
最初から全力投球ならぬ、全力投貨だ。
「いやボクも増やして欲しいよぉ!!」
「――(しゃーねーな)」
スラ子は自身の体をプルプルと震わせたかと思うと――なんと2つに分裂したのだ。
大きさは若干小さくなったが、
「――(スラも彦丸と同じだ、という自信に満ちる瞳)」
「おぉ! スラ子すげーな!」
「ズルい、ボクも増やしてぇ。忙しいんだよぉ」
「いや吉備丸のスキルは、どうやら俺と本人にしか掛からんみたいだ」
「――(お前もスライムになれ、という目線)」
昨日の修羅場を経験してるおかげなのと、最初から影分身を起動しているので楽に捌けた。
――若干1名ほど、しんどそうな顔しているが。
「ずるるるるる――ブヒィ!」
「疲れた体に染み渡るぅブヒィ!!」
「酒飲んでラーメン食って、さらに酒飲むブヒィ!!」
「この薄切りの肉じゃ物足りんブヒィ……もっと欲しいブヒッ」
よく考えたら焼豚って共食いにならねーのかな。
まぁ、いいか。
合間を見て、俺はマジカルーナで買った手帳に、細く削った木炭を使いメモを取っていく。
「ふむふむ。オークは食い応え優先っと……」
これの他にラーメン試作ノートや帳簿もある。
今、俺が書いているのは種族ごとの特徴だ。
オークはのんびりとしていて味にも煩くは無いが、食べ応えを重視した方が良い――という感じで書いている。
「――おっ」
オーク達がラーメンの他にツマミや酒で盛り上がっている様子を――木々に隠れ、氷のような冷たい目線で見ているエルフ兵が数人。
残り2人の俺が居れば、しばらくは大丈夫だろう。
そう思い、少し屋台から離れエルフ達の下へ行く。
「よぉエルフさん達。月が奇麗だと思わねーか」
「はぁ? 失せろ」
「死ね。〇〇〇野郎が」
「だいたい、曇ってるだろうが」
「そうだっけ?」
確かに曇ってる。よく見てなかったわ。
「まぁまぁ。そんなところに居ないで、ラーメン食わねーか」
「ブタ野郎と一緒に食事する趣味は無い」
「別に一緒でなくてもいいぜ。自分の部屋に持ち帰ってもいい……あっ、器は返して貰うけど」
「そんなクソマズそうな料理、いらんわ」
「なッ!」
俺の作るラーメンを、食いもしないで――クソマズいだと!?
「止めろお前らッ」
その静止が1歩遅ければ、俺はエルフ兵に殴りかかっていただろう――まぁ返り討ちに会いそうだが。
木の上から降りて来たのは、他のエルフとは一線を引く――金髪に、白銀のメッシュが入った美女だった。
やはり口元は緑のスカーフで覆われ、その煽情的な露出度の高い恰好は目に毒だわ。
「エルド様……」
「我々より劣ったカスのような人種とはいえ、1人の子供が差し出す好意――それを無下もなく否定するではない」
でもやっぱ殴りてぇ。
「悪かったなノーマンの子供よ」
「アンタは――」
「我の名はエルド。レティシア共和国よりオリジン部隊のリーダーを任せられている」
「オリジン?」
「マジカルーナ出身のクセにそんな事も知らんのか。オリジンとは、つまり純血エルフの事だ」
「他種族と交わることもなく、己が血を誇りに思い、命を紡いできた」
「我がレティシア共和国には純血エルフが多く住んでおり、その中でも選りすぐったメンバーでこの戦争に参加している」
「なるほどなー」
「ノーマンの子よ。先ほどの事は悪く思わないでくれ――だがそのラーメンという料理、我々は食べられないのだ」
「なんで――いや」
そういえば昼間の戦い。
なんでオーヴェスト側は煙を出すのに、わざわざ獣の肉や皮を木材に混ぜて焚いたんだ?
「匂いで分かる。アレからは、生臭さが使われている……そうだな?」
「えーっと。確かに鳥と豚と、カツオとかニボシとか……魚だな」
「やはり……我々はその純潔なる血を守る為、一切の肉を食わんのだ」
「……マジで?」
「マジだ。我は500年ほど生きているが、その間。1欠片として食していない」
後ろのエルフ兵も頷いている。
「……オーヴェストの奴らの卑劣な行為。許せんッ!」
「やっぱ、煙が焚かれて撤退したのは……」
「吸ってしまう訳にはいかない――少しでも吸った者は、浄化の為にずっとぬるま湯を飲んでは吐いてを繰り返している」
「うげぇ。そりゃすげーな」
「そういう訳だ――行くぞ」
そう言ってエルドは仲間を引き連れてここから離れようとしたのだが、
「ちょっと待ってくれ」
「……なんだ」
「少し時間と兵糧を貰うけどよ……アンタらが食えて、美味いって言わせるラーメン。ここで作ってやるぜ」
俺はニヤリと笑うと、お返しにエルドは侮蔑の目線を送ってきた。
「ブタ共の口に合うような料理で、我らの舌を満足させるだと?」
「言葉が過ぎるぞ、〇〇〇野郎!!」
「――もしマズければどうする」
「俺の首……いや」
自身のエプロンを剥ぎ取り、前へと突き出す。
「魂を差し出す」
「……良いだろう」
「エルド様!?」
「今夜中だ。今夜中に我を満足させる事が出来るラーメンとやらを作って見るがいい……出来なければ――」
その先は言わなかったが、首元にヒヤりとした感触が残る。
エルドは他のエルフ兵を引き連れ、森の方へと入って行った。
「さて……」
「彦丸! こんなところに居た」
「よーしエリク」
ちょうど良いところにエリクが来たので、その肩をガッシリと掴む。
「えっ。な、なに……? こんな人気のない場所で、もしかして……」
なんで顔を赤くしてモジモジしてんだ?
まぁいいか。
「ちょっとエルフが持ってる兵糧にある野菜、いくつか採って来てくれ」
「そんなボクらまだ早……え?」
「今から……エルフの奴らを満足させるラーメンを作る」
「え、ええええっ!?」
エリクの情けない悲鳴が、森中に響き渡るのであった。




