7.ヴァリアス平原の戦い・2日目
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ヴァレン歴107年 春 早朝
快晴、レティシア側へやや風あり
オーヴェスト王国騎士団 100人、民兵 約900人(100人は負傷兵として不参加)
VS
魔王従属国 レティシア共和国・オーク&エルフ連合部隊 約5000人
戦争見届人:魔法公国マジカルーナ代表、代理人「最上彦丸」
勝利条件
・互いの本陣陥落
※7日目までに落とせなかった場合、双方引分けとする。
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山の向こうより日が昇り――その頂上に達した時、2日目の戦いが始まる。
ジャーン! ジャーン! ジャーン!
ブオオオオ、ブオオオオ!!
昨日よりさらに数の不利を背負ってしまったオーヴェスト側。
レティシア側は昨日の勝利で味を占めたのか、槍兵を前に出した全く同じ陣形。
しかし、ここでオッサンの取った作戦は――。
「相手の出方に決して怯むな。我らには、王国の民1万の命が掛かっているのだ!!」
『おおー!!』
盾を前面に出し密集する守り一辺倒の陣形。
これはオーク兵も戸惑っていたが、すぐに前進の指示がでる。
ブオオオオ!!
しかし昨日、1度は蹴散らした相手。
オーク兵達は、その自慢の腕力を使い、相手を蹂躙――できなかった。
民兵による農作業で鍛えたどっしりとした構えは、この守りの陣形と上手く嚙み合ったのだろう。
相手の猛攻を防ぎ、たまにエルフによる弓の援護も入るが――やはり崩せない。
焦って槍を振るうが、徐々にオーク兵の動きに乱れが生じた。
そこをオッサンは見逃さなかった。
「押せぇぇぇええ!!」
ジャーンジャーンジャーン!!
『おおおおおお!!!』
盾ごと相手を圧し潰すかの如く、前進した。
しかも右翼と左翼はオーク兵を囲うように動く。
結果として、オーク兵は森を背に全部隊が囲まれている形となる。
「決して深追いはするな!!」
オーク兵は互いに身動きし難いほど密集してしまい、さらに盾兵の間より――騎士達が飛び出したのだ。
剣を抜き、オークに乱戦を仕掛けたのだ。
これによりエルフ達もオーク兵へ援護がやり難くなる。
「そうだ! 槍の間合いではなく、剣の間合いだ。恐れる事はない、お前らは勇敢だ!!」
しかしエルフの思考能力は、俺とオッサンの想像を超えていた。
ヒュンッ――ドスッ。
「ぐぅッ!?」
「そんな、矢が!?」
この乱戦の中、オーヴェスト側に正確に射ってきたのだ――と、兵士の誰もが思っただろう。
「ブモッ!?」
だが違った。
なんとエルフは民兵もオーク兵も、巻き込んで一緒に攻撃し始めたのだ。
これはオーク兵も混乱する。
「どういうつもりだ草喰い共ブヒィ!!」
「敵を倒しているのだ、問題あるまい――我らの邪魔をしているのはお前達の方だ、ブタ共が!」
「なんだとブヒィ!!」
女神の耳(ネーミングにイラつくスキル名)を使用している俺には、しっかりとその言い争いが聞こえている。
「あーらら、仲間割れか」
「もしかして、このままお父様……オーヴェスト側が勝てるかな!」
ウキウキしつつ、しっかりこの出来事も記録していくエリク。
「そう甘くはねーんじゃねーかな。森に入れば野戦の得意なエルフのフィールドだし、予備隊もあるんだ。まだまだレティシア側が優ってるだろ」
「そっか……」
しゅん――とするエリク。
レティシア側の予備隊は森の外で待機している。
もし勢いのままオーヴェスト側が森へと入れば、予備隊の軍が一気に攻めてくるはずだ。
ジャーーン、ジャーーン!!
「ここで撤退の合図か?」
ドラの音と共に、盾兵を含めたすべての兵士が一旦森より離れる。
これ以上の無差別攻撃による損耗を防ぎたかったのか、あるいは――。
「再び開けた場所に出れば、我らの矢の餌食よ。構え――撃てぇ!!」
下がっていく兵士に向けて、容赦なくエルフは射撃攻撃を行う。
しかし、今度はエルフが驚く番だった。
ゴオオオ――ッ!!
突然の突風が、矢の軌道をズラし、逸らせたのだ。
「なんだ、何が起こっておる!?」
これに対し、オッサンは号令を掛ける。
「ここは我らが王国。地の利は、我らにある!!」
オッサンの掛け声と共に、こちら側の弓による一斉攻撃。
しかも追い風となったおかげで、森の方まで射撃が届くのだ。
「そうか。ヴェリアスの息吹だ!」
「なんだそれ」
「春頃になると、この平原には山から吹き下ろす突風が吹く事があるんだ」
「へぇー」
まさに神風。
さらにオーヴェスト側の後方から、大量の白い煙が噴き出して来たのだ。
「げほっ、ごほっ――」
「劣等のノーマンの奴ら、我らを燻すつもりか!?」
「ダメです隊長。この煙、獣を焼いているようです……」
「なんだと!? 退却だ。穢れた煙を吸うな! すぐに退却しろ!!」
「この草食い! 逃げんじゃねぇブヒィ!!」
予備隊の存在を気にしてか、オッサンも追撃はしなかった。
しかし2日目は、オーヴェスト側の大勝利に終わったのだ。
「良かったぁ……」
「確か勝利条件は7日目までに本陣を落とすこと、だったっけな。出来なければ双方そのまま撤退」
「このまま守ってれば勝てるって事?」
「まぁ負けは無いな。そもそも魔王軍側が攻める必要があっても、オッサン側に攻める理由はねぇ。今日みたいに守りに徹して、少しずつ削っていけば……って感じかな」
「でも凄いね彦丸。ラーメンだけでなくて、兵法まで詳しいのって」
「いや全然……まぁ昔、弟子入りしてた師匠が歴史とかそういうの好きで、その影響でちょっと勉強したりもしたけど……」
ラーメンに関係は無いと思い、あんまり真面目にはやってない。
「こうやって外から見てたら分かるってだけだ。実際に用兵しろなんか言われたら、速攻で断るぞ」
「ふふ……」
しかしこの様子だと、レティシア側の野営地は雰囲気最悪だろうな。
そう思いながら、俺はラーメンの仕込みに掛かるのだった。




