6.ラーメン屋の矜持
客もほとんど捌き切った頃――オッサンと、副官の兄さんが屋台へとやってきた。
ちなみに影分身は既に効果切れで、分身の俺と吉備丸は消えている。
「……繁盛しているようだな」
「全く。こんな得体の知れない人間が作った、訳の分からない料理を嬉々として食べるなんて……」
「へいらっしゃい!」
「2人分だ」
「か、かしこまりました!」
テーブルに着いた2人。
俺は2杯分のラーメンを作り上げ、カウンターへと出した。
すぐにエリクが丼を持ち上げ、テーブルへと運んでいく。
「お待ちどうさまです! ラーメン2つです!」
「ありがとうございます、エリクちゃん」
「ふん……騎士団に居た頃より、楽しそうだな」
「えっ、あっ、別に……」
オッサンに睨まれ、縮こまってしまうエリク。
エリクの身の上は、前に少しだけ聞いたことがある。
代々王家へ騎士を排出する貴族、レイリーク家。
病気がちで子供に恵まれなかった夫婦に、念願の第1子が産まれた。
それがエリク――男児が産まれると信じて疑わなかった父親は、名をそれしか用意してなかったのだ。
しかも本人は絵が得意なだけで、騎士としての能力は底辺。本来は半年で卒業する見習いを、エリクは1年続けている。
だからなのかオッサンはエリクに対し、必要以上に距離を置いているように見えた。
「……ズルッ、ズルッ」
「……」
オッサンは若干啜りながら、兄さんは音を立てずに上品に食べる。
「ほぉ……これは美味いな」
「えぇ。戦場でこれだけのものが食べられるなんて、兵の士気も上がりますね」
先ほどまでの警戒もすぐにどこか行ってしまったように、機嫌良くラーメンを食べていく2人。
「そうだろそうだろ」
俺もそこまでは調子良く頷いてたんだが――。
「して、彦丸よ」
「なんだいオッサン」
「お前は明日……どこで店を開く気だ」
「そりゃ当然、レティシア側だよ」
俺自身の所属、というか身元保証人はマジカルーナだ。
見届人として戦争の行く末は観察しないといけないが、それも戦争やってる最中だけだ。
夕刻以降は俺のプライベートな仕事の時間。マジカルーナの代表にも許可は貰ってる。
「――聞け、彦丸よ」
オッサンはラーメンを食い切ると、立ち上がり俺の前までやってきた。
「お前があのマジカルーナ出身なら、世論に疎いのも納得がいく」
生まれも育ちも、異世界の日本だなんて口が挟める雰囲気じゃないな。
「あの国は、長らく立会国としてこの約定戦争に貢献をしてきた。それは自分からは決して戦争に参加しない中立国だからだ」
それに関しては俺も知っている。
全部代表から直接聞いた話だ。
「国土をほぼ持たず、しかし保有する戦力はあの魔王軍すら揺るがすほど――」
回りくどい説明を続けるオッサンに、俺はしびれを切らした。
「何が言いたいんだ、オッサン」
「――我らが人類の未来のため、マジカルーナを味方に付ける必要があるのだ」
席に座ったままの兄さんが、説明してくれた。
「……現在、魔王軍によって戦争に負け、従属となった国は3つあります」
オーヴェストと戦っているレティシア共和国は、エルフや妖精が多く住まう国。
国土のほぼすべてが山岳地帯。有翼人の王国、レイヴン。
地獄へ最も近い場所にあるとされるアルマゲスト。アンデットやヴァンパイアの国。
「奴らの戦力は日に日に増大し、ついに我がオーヴェストまで攻め入るまでに強大となった」
「残った8か国の内、4か国で同盟を組み、これ以上の侵攻を食い止めようと国王様も動いてなさる」
恐らく1つはマジカルーナだろう。
「ちなみに残る3か国は?」
「……帝国の連中は、動かんだろう。奴らはこの事態に静観を貫いている」
「ふーん」
「ここにマジカルーナが加われば、同盟は盤石のモノとなる」
「まぁ確かに俺はこの世界のことに詳しくないけどよ……」
ちょっとした疑問。
「魔王軍に全部国が奪われたら、どうなるんだ?」
「……神話によると、この世界のルールを制定なされた創造主様が、こうおっしゃったとされています」
『このルールの下、世界をすべて統一できた者には――アタシに代わり、神となる権利を与える』
「てことは魔王は、神様になりたいって訳か」
それで他の国も、全力で魔王に対抗している訳だ。
あるいは、自分こそが神様へとなる為に牙を研いでいるか。
「そうだろうな。神となれば、この世界のルールも書き換える事ができる――魔王のことだ。きっと血で血を流す闘争と狂乱の世界とするに違いない」
「そっか……大変だろうけど、頑張ってな」
「おい彦丸!」
チッ――と小さな金属音と共に、
「……その剣、本気か」
「ッ!?」
いつ抜いたのか――喉元に、鋭い切っ先が向けられていた。
エリクが息を呑むのが伝わってくる。
「本気だ。お前はどういう訳か、その若さで見届人の代理人を務めるほどの人間。お前を仲間に引き入れ、さらにマジカルーナと同盟を結ぶ必要があるのだ」
「剣を向けて言うセリフじゃねーな」
両手を上にあげながら、少し自嘲気味に笑う。
「……返答は」
「……断る」
そう言った瞬間、オッサンの柄を握る力が強まる。
「お前、それこそ本気か」
「本気も本気だよ。そもそも見届人ではあるけどよ、俺自身はただのラーメン屋の店主だ……国の代表を動かすほどのコネもねーよ。買いかぶり過ぎだ」
「……」
「魔王だの、人類の尊厳だのは、俺には関係ねえ。俺は、俺の目の前にいる客に美味いラーメンを食わせて、笑顔にしたい。それ以上も、それ以下もねぇ」
俺はエプロンを外し、オッサンへと突き付ける。
「それが俺のラーメン屋としての、矜持だ」
オッサンは剣を鞘に納める。
「……分かった」
「ジーク団長!」
「お前がそれほどの覚悟があるというのなら、好きにすればいい――だが、最後に勝つのは我々オーヴェストだ」
「そうか……まぁ、お互い頑張ろうぜ」
そのままオッサンはテントの方へと向かい、それを見守っていたエリクは一言も喋ることはなく――俺もまた、黙って後片付けをするのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
<戦績報告>
オーヴェスト王国騎士団&民兵 300人
VS
ラーメン屋台『吉備丸』
店主:最上彦丸
・勝利条件
◎300食分売り切ること:COMPLETE!
〇オーヴェスト陣営の胃袋を満足させろ:COMPLETE!
【総売上】
・ジルバ戦貨10枚×300食=3000枚
(ジルバ戦貨1枚=銀貨2枚で計算)
・銀貨換算:6000枚
・金貨換算:120枚
【営業経費(人件費・原材料費)】
・原材料費:銀貨600枚
・エリク給料:銀貨 50枚
・スラ子給料:銀貨 50枚
・経費合計:金貨14枚
【本営業・純利益】
・金貨106枚
※スキル代金(影分身等)は含まず。
【貯蓄】
・金貨10枚
【借金完済への進捗】
・残り奉納額: 金貨99,640枚
・今回の返済: 金貨 96枚
・奉納残高:金貨99,544枚
◆ ◆ ◆ ◆ ◆




