4.吉備丸「営業開始!」
☆異世界にやってきてからのダイジェスト(彦丸日記より)
まずマジカルーナ首都近くの森で3日彷徨うだろ。
たまたまゴブリンにイジメられているスラ子を助けて。
スラ子に着いてお城へ行くと――何故か投獄され処刑されそうになり。
代表とかいう爺さんに助けられ。
マジカルーナでラーメン屋台始めたけど全然稼げなくて。
そしたら約定戦争で立会国と見届人の話を聞いて、一緒に着いて行って。
そこでなら大量のお客を捕まえられると踏んだ俺は。
爺さんに頼み込んで、代理の見届人としてこの戦からデビューしたのであった。
終わり。
◇
すっかり山の向こうへ姿を隠し、地平線の向こうまで星空が広がる頃。
俺達はオーヴェスト陣営の野営地まで辿り着いたのだ。
ひとまず俺達は、屋台を引き奥へと進んでいく。
野営地にはいくつもテントが並ぶ。
例えば国からの支給品であれば既製品のテントが並ぶ訳だが――ここにあるのは色や布地、材質もバラバラだ。
恐らく民兵の持ち出しなのだろう。
倉庫から引っ張り出したせいなのか、あるいは連日の雨のせいで渇いてないのか。少しカビ臭い。
さらにぬかるんだ足元だ。中で休んでも体力は回復しないだろうな。
奥の騎士団のテント群と、民兵のテント群の間にはみんなの食事するスペース――野営食堂がある。
料理部隊の作る飯を順番に並んで受け取り、その辺の簡易的な布を張った椅子に腰掛けて丸太を半分切ったようなテーブルで飯を食っている。
今日のメニューは――硬そうなパン、塩気の強そうな太いソーセージ、暖かいスープ。
そこにワインを木製ジョッキで一杯。
「みんな、食事楽しんでるなぁ」
エリクが少し物欲しそうに眺めている。
約定戦争のルール制定のおかげで夜襲を心配、警戒する必要がないと――そう思っている民兵達は、気楽に酒を飲みながら夕餉を楽しんでいる。
逆に騎士団の連中は、代わり替わりパトロールをしているようだ。流石だな。
俺は屋台とスラ子だけそこの端っこの方に置き、エリクと一緒に騎士団の――その中で最も立派な造りのテントへとやってきていた。
「騎士見習い、エリク=レイリーク。は、入ります!」
「オッサンいるか?」
「オッサンじゃない。騎士団長様と呼べ」
眉間にシワを寄せながら、他の騎士隊員と共に真ん中にあるテーブル――そこへ広げられた羊皮紙の地図。
さらに地図には黒と白のチェスのコマ……によく似たモノがいくつか置かれている。
軍議の最中だったのだろう。
「これは失礼しました。ジーク=レイリーク騎士団長殿」
とってつけたような俺の敬礼に、オッサンは深いため息をついた。
まぁオッサンはまだ30代なんだが、常に眉間にシワが寄っているので実年齢より老けて見える。
栗色のツンツンした髪、モミアゲも立派だ。
騎士団長専用の銀の鎧もデザインは割とカッコイイ。
「はぁ――で、用件は」
「はっ。ここの野営食堂で、ラーメン屋をやらせて頂きたく思います。サー」
「サーってなんだ……まぁいい。好きにやれ」
オッサンの隣に居た副官らしき騎士が耳打ちする。
「よろしいのですか団長殿」
「彼は――あのマジカルーナの見届人だ……全く。お前は何者なんだよ」
「俺か? 俺は、ただのラーメン屋店主だ」
「……エリク」
「は。はいッ。おとう――じゃなかった、騎士団長様!」
「こいつが我が軍に不利益を犯さないよう、しっかりと見張れ。それだけがお前の任務だ」
「はいッ。喜んでッ!」
テンパって敬礼するエリク。
親娘の対面だというのに、必要以上に緊張しているなぁ――どっちも。
「では、失礼します。サー」
「ああ」
不機嫌な騎士達のいるテントを離れ、俺は早速準備に取り掛かる。
「よーし、こんなところでいいか」
ラーメン屋台『吉備津丸』のセッティングは完了。
屋台の後ろにテントを張り。予備の鍋、麺などの在庫を入れた。
席は野戦食堂のテーブルを間借りして、屋台に吊るした『ら~めん』って書かれた提灯に明かりを灯した。
「さて……ひとまず鍋と麺は300食は事前に用意してるから大丈夫」
本来、屋台が提供できる数より遥かに多い。
もちろんそれだけの量を対応できるだけの在庫は、吉備丸の生産スキルのおかげで準備できたので、あとは俺の腕次第だ。
「エリク、丼の用意は大丈夫か」
「う、うん」
俺は屋台正面に備え付けてある賽銭箱と、それにくっ付いているタッチパネルを操作している。
隣には、頭に白い三角巾を付け、『吉備彦』と書かれたエプロンを付けるエリク。
「えっと、あと音声拡大スキルを選択してっと」
これには吉備津丸が習得しているスキルがズラっと並ぶ。
・千里眼(購入済:銀貨1枚)
・女神の耳(購入済:銀貨1枚)
・巨人の怪力(未購入:金貨1枚、初回サービス付)
・拡散音声(購入済:銀貨1枚)
・空中散歩(未購入:銀貨500枚)
・影分身(未購入:金貨20枚、初回2体分サービス付)
これは肉体強化に関するスキルだ。
もちろん他にもあるし、ラーメンに関する生産スキルもある。
この異世界で、俺が日本と同じラーメンを提供できるのもすべてこれのおかげだ。
ただし、異世界であっても世知辛い世の中なのは変わらない。
「パンパンッ――」
2回手拍子のあと、銀貨1枚を賽銭箱へ放り込む。
『まいどあり~♪』
クソむかつく女神の電子音がタッチパッドから流れてくる。
同時に。
どっからどう見ても拡声器にしか見えない機械が、手元に現れる。
「これ本当にスキルか? 千里眼はスキルっぽいのにさ」
吉備丸には、確かに多くのスキルが備わっている。
だがそのスキルのほとんどは『購入』しないと解放されないし、購入したとしても『使用料』を払わないと使うことが出来ない。
しかも、この購入代金や使用料は借金返済の足しにならないのも酷い。
あくまでラーメンを売った金でないとダメなのだ。
「……よし。じゃあ始めるぞ」
「――(任せとけやって感じでドヤる)」
『皆様! お疲れのところ失礼します!』
拡声器を構え、声を張り上げ過ぎないように、丁寧に喋る。
『わたくし、彦丸が皆様の慰問として――マジカルーナで大人気のラーメン販売したく思います。ジルバ戦貨なら10枚。銀貨なら30枚より販売しております。マジカルーナで大人気の料理、ここで食べないと一生食べられません。ぜひ、ご賞味ください!』
ジルバ戦貨は10枚で銀貨20枚ほどの価値(オーヴェストで交換した場合)。
なので、銀貨で普通に支払うよりも若干お得なのだ。
彼らは持ち出しのお金はあまりなく、大抵がこの戦貨を前金報酬として貰っている。
ちなみに普段のラーメンの値段は銀貨5枚。
いわゆるお祭り特別価格というやつだが、危険な戦場にまで出向いて暖かい料理を出しているんだ。このくらいは貰わないと割に合わねぇ。
まぁ、食べ応え重視して麺は半増しにしてあるけどな。
「なんだなんだ?」
「ら~めん? 聞いたこともねー料理だな」
「でもなんか、凄い良い匂いだな……」
屋台付近では、スラ子が小さい体で大きな団扇を仰いでいる。
鳥ガラと魚介系、各種野菜の合わさったWスープは、民兵達の胃袋を刺激する。
戦いそのものは今日が初日でも、ここまでやってくるまでの行軍でかなり疲弊している。
あの大雨の中、戦開始の時間まで間に合わないといけないのだ。
道中での食事は液体に浸さないと食べられない程に硬いパンと、削りながら食べる干し肉、マグカップ1杯分のスープのみ――。
普段から行軍の訓練もしている騎士団ならともかく、普段は農作業をしているような民兵で慣れない行軍。
体力はあっても、精神的な疲労度は計り知れない。
『鶏に含まれるコラーゲンには疲労回復のタフネスポーション効果。魚出汁には、旨味たっぷりのイノシン酸。これは精神を穏やかに鎮めるマジックポーションと同じ効果があります。この2つを掛け合わせたスープを飲めば、明日からも大活躍間違いなし!』
俺らの世界の栄養素と効果を、こちらの世界で高級品として扱われているポーションになぞらえて宣伝する。
正直全然ピンとはこねーだろうが――なんとなく値段の高い料理が、お得に食べられると思わせることが狙いだ。
ここでダメ押しの必殺宣伝文句を添える。
『本日は限定300食、300食を準備しております。早い者勝ちです。どうぞ屋台までお越しください』
次はいつ食べられるか分からない未知の料理。
しかも全員分は無い。
これで一気に興味を引き込む。
「じゃあちょっと食べてみるか……」
「こっちの料理より美味そうだな」
少しずつだが民兵の中から興味を持ち、屋台へ向かってくる奴らがいる。
「エリク、出番だ」
「ひゃいっ」
エリクのケツを軽く叩き、少し顔を赤くした彼女は屋台の前へ立つ。
ここからが、俺らの戦争開始だ――。




