12話 激おこエルフ女王
このヴァリアス平原から続く森の中。
レティシア陣営のあった野営地にて、3人の男女が正座させられていた。
1人目はオークキング、モスモス頭領。長さが足りなくて正座ではなく胡坐だが。
2人目はオリジン部隊のリーダー。エルド。沈鬱な表情で頭を下げている。
3人目は――この俺、彦丸だ。いきなりここに座らされている。
そして俺らの目の前には――場違いなほど薄い衣を身に纏った、レオタードの美女が居た。
金髪で美女でスタイルが良いのは大体エルフがそうなのだが、格好のせいで夜の街にでも居そうな雰囲気だ。今まで見たエルフの中で、胸は断トツで大きい。
そんな美女エルフだが、こんな肩書で呼ばれている。
【レティシア共和国代表 エルキア・エルヴンクイーン】
しかしそんな美女も、若干顔を引きつらせながら、手にはよくしなりそうなムチを持っている。
ムチっていうより、ほぼ棒だけどな。
「あれあらエルドちゃん。これはどういう事かしら」
「その……あの……」
「たった2日半で終わったなんて、どんな顔して魔王さんに報告すればいいのかしら」
「そ、それは……」
「部下がうっかり寝過ごしたなんて――代表として、そんなくだらないこと報告しないといけないのかしら?」
冷静沈着で、どんなものであろうとも射貫きそうな鋭い目を持ったあのエルドが――全身から汗を流しながら平伏している。
「そこのブタさんに話を聞いてみたら、貴女――美味しい料理食べて、満足して眠ってたって言うじゃない?」
頭は下げつつ顔だけ横に向き、(おいっブタ。なんでベラベラ喋ったんだ!)というエルドの視線。
「ブヒィ?」
頭領はよく分かってない顔をしている。
「あの彦丸が作ったラーメン。2杯とも食ったが、ありゃもうすごく美味かったブヒ」
「そうそう。それで、貴方が彦丸ちゃんね?」
ヒュンッヒュンッ――と、ご機嫌そうにムチを振るっているエルフ女王。
「おう。今回の見届人と、ラーメン『吉備丸』の店主をやってる彦丸って言うんだ。よろ――」
バシッ!
「いっってぇ!!」
俺が自己紹介を仕掛けようと立ち上がりかけたら、肩へムチが振り下ろされた。
「誰が、わたくしと同じ目線になっていいと言いました?」
ちなみにエリクとスラ子。
ついでに頭領直属のオーク兵や、エルドの数名の部下達は吉備丸の物陰に隠れ様子を伺っている。
そして――この場には、オーヴェスト騎士団の団長。つまりオッサンがいる。
「エルキア殿! 見届人である彼に危害を加えることは……」
「その立場で、神聖なる戦争の勝敗を汚した男が見届け人など――」
バシッ!
「ブヒッ!?」
何故か頭領の頭が打たれる。
「片腹がポンポンですわね」
「だとしても。勝手に私刑のような真似事は止してください」
「そもそも――話に聞けば、この男の手伝いをしている助手に。団長様のご令嬢がいると聞きましてよ」
エリクが「ひっ」という声と共に頭を引っ込める。
「娘はいまだに騎士団に正式入隊しておらず、またこの彦丸に正式な書面にて貸し出しています。事前の取り決めでも、そうお伝えしました。妙な言い掛かりは――」
バシッ!
「きゃっ!?」
今度はエルドに当たる。
さては、ムチでしばきたいだけだな?
「そのご令嬢さんに惚れた見届人が、お父様の陣営を勝たせるべく、兵糧の差し入れなどと言い催眠薬を混入していないと、断言できますか?」
「いやっ。俺のラーメンには断じてそんなもんは入れねぇよ――」
バシッ!
「いってぇなぁもう!」
「――つまり、女王はどうすればご納得いただけますか」
「そんなもの――この戦争のやり直しを要求しますわ」
エルフ女王は、ムチで俺の顔を指した。
「もちろん。この見届人は排除した上で。ですわ」
「それを貴女が勝手に判断されては――」
そんな2人の言い争いに、水を差す者が居た。
「ほっほっ。白熱しとるな――」
箒にまたがり、星空柄のローブを身に纏った白髪の老人が――空から舞い降りて来た。
「よぉ彦丸、元気にしとるか」
「「マスターオキナッ!?」」
オッサンとエルフ女王が同時に呼ぶ。
えっ、爺さんそんな名前なのか。
「幻影……ではありませんね」
「公の場に直接出るのは、この100年以上は無かったという、あの伝説の――!」
そんなに長生きで、しかもすげーのか爺さん。
「――伝説の引きこもり、ウィザードマスターオキナ……」
凄いシリアスな顔で言ってるが、なんか嫌だな。その呼ばれ方。
「スラ子より入電があってな――ざっくりした事情が聞いておる」
その自慢の長い白髭を撫でながら、箒から降りる。
2人は1歩退いて、身体をこわばらせる。
しかし爺さんなんかより長生きしてそうなエルフ女王が、そこまで警戒するのかね。
「そ、そうですわ。そこの見届人が提供した料理のせいで、我が軍の中枢はマヒ状態に陥り、結果――そこのノーマン連中の国に負けた判定となりましたわ!」
「判定も何もルール通りじゃろ――見届人は、あくまでルール通り戦争が行われているか監視し、どんな内容だったかを記録する義務があるだけじゃ」
ニコニコと微笑みながら、まるで孫に諭すように続ける。
「それ以上のことに不服があるなら、事前にルールに記しておくべきじゃな」
「なっ――!」
「……彦丸は決して料理に薬や毒を盛ったりせぬ」
「その証拠は――」
「おぬしが言い出したんだから、その証拠はおぬしが出して見せるのじゃ」
「女王様!」
エルフ女王と似たレオタードに鎧を付けたよな服のエルフがやってきた。
さしずめ、近衛兵か。
「何人かの体液を調べましたが、反応は出ませんでした。鍋も同様です」
「くっ」
どうやら昨日ラーメンを食ったエルフを検査してたようだ。
「だから言っただろ。俺は、自分のラーメン魂に賭けて――毒なんか盛らねーよ!」
「そもそも、じゃ。彦丸のラーメンを食べて、盛り上がって酒飲んで盛り上がったのは、そっちの兵士らじゃろ。その前に、オーヴェスト陣営にも同じように振舞っておる」
「彦丸の非を問うなら、まずは己らの非を認めよ」
「ぐぐぐ――」
ムチが折れそうなくらい曲げ、ぐぬぬ顔を披露するエルフ女王。
「それでも――この料理人が! 何もしなければ、事は置きませんでしたわ! これが無罪放免などと!」
「まぁ……それも確かに一理ある。オーヴェスト陣営側の娘を借りている負い目もある」
「よって。この見届人代理である最上彦丸、及びその助手エリクは――今後はオーヴェスト王国の戦争に、一切関わることを禁じる。戦場でのラーメンの販売もじゃ」
「……」
「えぇぇぇぇえっ!?」
再び顔を出したエリクが驚き、叫んだ。
そして俺はというと――セーフ!
国内に入ることまで禁じられたら、せっかく稼いだ戦貨が換金できないところだったからな。
「分かったな彦丸よ」
「ああ……俺は、どこの旗も背負わねぇ。仕事はあくまで俺の都合だ」
それでも釈然としないエルフ女王に、爺さんは優しく声をかけた。
「という訳で、今回はワシに免じて矛を収めてくれんか。エルちゃんよ」
『エルちゃん!?』
その場に居たほぼすべての人が驚き、叫んだ。
「そ、その名で呼ぶでない!」
「かつては共に風呂に入った――おっと」
「ぐぬぬ――」
爺さん軽快なステップで、あのムチを回避しやがった。
「ほっほっ――団長殿もすまんのぉ。しかし疑いの芽を摘むには、貸しのある側から距離を取らせる。これが1番早いのじゃ」
「いえ。むしろ御寛大な処置に、感謝いたします」
「という訳で、今回の約定戦争はここまでじゃ――」
爺さんが両手を叩くと――俺、吉備丸、エリク、スラ子の体がぼやっと光る。
箒に再びまたがり、宙へと浮く。
「では皆の者。達者でな!」
俺らは全員、爺さんに引っ張られるように宙を浮き――そのまま飛んで行く。
「う、浮いてるぅッ!?」
「――(空の散歩楽しいぞ)」
「……」
こうして俺の見届人(代理)としての初仕事は終わるのだった。
だが、忘れる前にやっておくことがある。
「爺さん! 戦貨交換するから、ちょっとオーヴェストとレティシア寄ってくれないか?」
「じゃあまぁ、オーヴェストへ先に寄るかのぉ」
「うぇぇえええっ!?」
急旋回で頭の天地が入れ替わり、エリクの悲鳴がヴァリアス平原の空へと響くのだった――。
第1章、完。
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令和7年の更新はここまでです。
第2章は来年より再開します。




