表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ラーメン屋台戦記~俺じゃなくて屋台がチートスキル持ち!? 借金完済しないと俺が死ぬ!?~  作者: 夢野又座/ゆめのマタグラ
第1章 ラーメン屋台店主、異世界に立つ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/12

11話 異世界ベジポタラーメン


 夜の森は静かだ。昼間の戦が嘘のように、虫の音すら聞こえない。

 まぁ代わりに、オークの寝息がそこら中から聞こえるんだが。

 

 その中で――俺の屋台だけが、ほんのりと火の明かりを灯していた。


 「……母さん」


 屋台『吉備丸』の厨房に立ち、寸胴の前で手を合わせた。

 派手なことをするつもりはない。ただ、ひととき静かに目を閉じ、スープの湯気とともに記憶の片隅へ想いを馳せる。


 黙とうは数秒ほど。

 それで、充分だった。


 「よし。やるか」


 鍋の中では、野菜の甘みが凝縮されたスープが静かに煮えている。

 具材の準備も万全だ。炙って香ばしい焦げ目をつけたテンペ。絶妙な歯ごたえのメンマ。彩りに軽く味付けした青菜。


「彦丸、あの人たちが……」


 厨房の脇で、エリクがスラ子を抱きかかえながら不安げにしていた。

 スラ子はというと、珍しく大人しく、その半透明の体をプルプルと震わせていた。


 「――(森の気配、いっぱい)」


 無理もない。

 屋台のすぐ前――森の木陰には、十数名のエルフ兵が整然と立っていた。

 そしてその中心に立つのは――ひときわ気配の鋭い女エルフ。


 白銀の長髪、月明りを映すような凛とした顔立ち、獲物を射貫く切れ長の翠の瞳。

 その背中に背負った黒曜の長弓は、見る者に一切の緩みを許さない。


 「来たな、エルド」


 レティシアの精鋭、オリジンエルフ部隊のリーダー。

 エルフ達の中でも、純潔を守り続けてきた存在。

 そのため、生臭を一切食さない徹底ぶりだ。


 俺は、黙って丼を用意した。

 次に全粒粉麺の中太麺を1玉、湯に泳がせる。

 その間も、エルドはじっと俺の手元を見ていた。


 「それが、お前の()()に作るラーメンだ」

 「いいや。お前の人生で、最初に()()()ラーメンだ」


 湯切りザルを一振り。

 

 ザッーーー!


 小気味よい音が厨房へ響く。

 麺をスープに落とし、具材を丁寧に盛りつけていく。

 テンペを中心に据え、メンマと青菜、そして柚子皮を添えた。


 「いくぜ――これがッ!」


 渾身の丼を、目の前のカウンターに置いた。


「精進ラーメン改め、異世界野菜たっぷりのベジポタラーメンだ!」


 人参のオレンジ色と豆乳ベースの白が渦を巻くポタージュ状のスープ。

 小麦の香りが力強く立ちのぼり、この野菜の甘い香りと混ざり合う。

 柚子と焦げ目のついたテンペの醤油の匂いが、また食欲を掻き立てる。


 エルドは、丼の前へと立ち――少し香りを嗅ぐように手で扇ぐ。


「確かに獣の匂いはしないな……そこの女!」

「ひゃ、ひゃい!」

「毒見だ。1口食べてみろ」

「なんも入ってねーよ」

「……」

 

 その鋭利な目線で射貫かれたようにビビっていたエリクだったが、


「で、ではいただきますっ」


 エリクは、俺の普段からやっている行動を真似ているようだ。

 両手を合わせ――フォークを使い、麺をひとすすり。


「ズズッ……ズズズッ」


 少しすすり難そうに顔を赤くする。

 しかしスープのよく絡んだ麺を飲み込むと――彼女の表情がパァと輝いた。


「――美味しい! お肉使ってないのに、もの凄いコクがあって……美味しいよ!」

「だろ?」

「……ッ」


 その様子を見ていたエルドが、おもむろにフォークを取った。

 まるで今から死合いでもするかのような形相に、エリクは丼を置いて2歩下がる。


「ど、どうぞ……」

「ああ……」


 フォークをドロっとしたスープの中へと潜らせ、太めの麺を巻き付け――、


「お前の食べ方が、このラーメンとやらの正式な食べ方なのか?」

「えっ、あっ、はいそうです!」


 ビビりながらも、力説するエリク。


「それが、ラーメンの1番美味しい食べ方だって、教えて貰いました!」

「そうか――」


 静かに麺を一口、そしてすする――。


 ズルッ……ズルルルルッ!


「「リーダー!?」」

「そんな下品な音を立てて……!?」

 

 後ろにいたエルフ兵は騒然としているが、エルドはそんな周りの反応などお構いなしにすすりきった。


「――なんだこれは」

「えー、これはだな……」

「ズルッ! パクッ! ゴクッ!!」


 俺が説明する間もなく、次々と麺をすすり、テンペを食べ、丼に直接口をつけてスープを飲む。


「……なんなのだ、これは!!」


 結局、丼にあったすべてのラーメンを完食し切ったエルドは――自分のやったことに驚きを隠せないようだ。


「エルド……それがラーメンだ」


 呆然とするエルドへ、他のエルフ兵が心配そうに駆け寄る。


「リーダー、大丈夫なのですか?」

「アレは肉のようにも見えましたが……」

「あれか? あれはテンペてっていう大豆……豆で出来た食材なんだ。それを醤油っていうソースに漬け込んで、少しだけ火を通したんだ」

「味わっても、どこにも獣の姿はなかった――」


 エルドはただ呆然としていた訳じゃない。

 その味を確かめるように呟き、確かな満足感を瞳に宿していた。


「我々がよく食べる料理と言えば野菜を焼くか、煮て塩で味付けするだけ。森の恵みに感謝し、そのままの姿で頂く――」

「まるで坊さんのような奴らだな」

「坊さん?」

「僧侶、神官のことだよ。俺の知っている国でも、生臭さが一切食えないって奴らがいる。まぁ坊さんは割と食べたりするけど」

「これは、そいつ等のために作ったのか?」

「いいや……」


 母さんが死んでから……あの世でも俺の作ったラーメン食べて欲しくて考案した。

 生臭さは一切ダメだって、世話してくれた坊さんに言われたから――昆布と干しシイタケの出汁で作ったお吸い物みたいなラーメンを作った。

 作った当初は、そこまで美味しくはなかった。


 だから、吉備丸と一緒に店として出せるレベルにまで研究したんだ。

 その完成は、今ここへ形になった。


「これは、お前らのために作ったラーメンだ」

「そうか……」

「そ、それでどうなんですか!? 彦丸の首は大丈夫なんでしょうか!」


 エルドは空っぽになった丼を、後ろに居たエルフ兵へと見せつける。


「皆の者! この彦丸というノーマンの男を、ラーメンという料理を。このエルドの名において認める!」


 凛々しい声が森中に響き渡る――。

 同時にそこらにエルフ兵はもちろん、木々の間からエルフ兵が顔を出す。

 50人……70人くらいは居るのか?


「ひ、ひぇえええ!?」

「すっげー隠れてたな!」


「すいませんリーダー。私達も……」

「みなまで言うな……彦丸よ。この者達に――ラーメンを!」

 

「へいっ、ご注文入りました。異世界ベジポタラーメン。銀貨なら200枚のところ、レティシア発行のジルバ戦貨なら50枚!」


 レティシアで交換すれば……150枚くらいにはなるだろ。多分。

 ラーメン作るのに必死になって、あまり値段まで考えてなかったな。


「いまなら限定600杯でご提供します!」

「え、えぇ!? 今から!? しかもなんか増えてる!?」


 俺はタッチパネルを操作して、600人分スープや麺やらを発注する。

 あと貯蓄から金貨2枚で、影分身も呼び出す。


「500人? 我々は100人ほど……ハッ」

「いい匂いだブヒィ……」

「なんだこの豊潤な香りブヒィ」

「オーク殿め。匂いにつられて起きて来たか」

「いいじゃねーか」


「美味いラーメンはみんなで食べてこそ、だ」

「むう……」

「そんな困った顔すんなよ。美人な顔が台無しだぜ」

「大きなお世話だ――まぁ、お前の顔に免じて、今日は争わないでいてやろう」


 その間にも、オーク兵やエルフ兵がどんどん列を形成していく。


「じゃあオーク兵の皆さんも! ジルバ戦貨50枚ですよ! エリク、スラ子。また頼んだぞ!」

「――(ちゃんと金は貰うぞ、という厳しい目)」

「えーもう寝させてよぉ!!」

 

「ブヒィィィ!! ラーメン食べるブヒィィィ!!」

「ええい。うるさいぞブタ共!!」

「またまた宴だブヒィィィイイ!!」

 

 このラーメンによる宴が、夜が明ける頃まで続いた――。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


  <戦績報告>

 

 レティシア所属エルフ兵  計 100人

 魔王軍所属オーク兵    計 500人×2回


      VS


 ラーメン屋台『吉備丸』

 店主:最上彦丸


・勝利条件

◎500食分売り切ること。:COMPLETE!

◎レティシア陣営2種族の胃袋を満足させろ。:COMPLETE!

◎オリジン隊リーダー『エルド』を認めさせろ。:COMPLETE!

 

【総売上】

・ラーメン:ジルバ戦貨10枚×500食=5,000枚

・ベジポタラーメン:ジルバ戦貨50枚×1,100食=55,000枚

(ジルバ戦貨1枚=銀貨3.5枚で計算)

・銀貨換算:21,000枚

・金貨換算:4,200枚


【営業経費(人件費・原材料費)】

・原材料費:銀貨3,200枚(金貨64枚)

・エリク給料:銀貨 100枚

・スラ子給料:銀貨 100枚

・経費合計:金貨68枚

※スキル代金(影分身等)は含まず。


【本営業・純利益】

・金貨4,132枚


【貯蓄】

・金貨10枚

・合計18枚


【借金完済への進捗】

・残り奉納額: 金貨99,640枚

・今回の返済: 金貨 4,122枚

・奉納残高:金貨95,422枚


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 俺がこの帳簿を付けていたら――戦場へ、開戦を告げるドラが鳴り響く。

 そこで俺は気付いた。


「……こいつ等、寝てるけど」


 満腹と幸福感に包まれたレティシア陣営の面々達。

 ここへオーヴェスト軍が到達するのに、さほど時間は掛からなかった。


 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 <戦争結果>

 

 ヴァリアス平原の戦い

 3日目 昼過ぎ

 

 快晴、ほぼ無風


 オーヴェスト王国騎士団 100人、民兵 約900人


      VS


 魔王従属国 レティシア共和国・オーク&エルフ連合部隊 約4400人(頭領とリーダーの軍不在)


 戦争見届人:魔法公国マジカルーナ代表、代理人「最上彦丸」


・勝敗

 『レティシア陣営側の本拠地陥落にて、決着』

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ