10.師匠の言葉、俺のラーメン
ホー、ホー。
ブヒィ……ゴフッ。
グゴゴゴ――スピ―。
森の生き物の鳴き声に紛れて、うるさい寝息を立てて眠っているオーク兵達。
エリクが野菜を持って帰ってくる頃には、あれだけ騒いでいた奴らは酔い潰れてしまった。
「前に話してくれたけどさー」
「なんだ?」
エリクの背負ったカゴに入った色んな野菜を、厨房へ持って行くのに取り出し、選別していく。
基本的に野菜そのものは、向こうの世界と共通するものが多いのは助かった。
……なんかこのニンジン、人の顔みてーのが付いてないか?
「彦丸って借金あるんでしょ?」
「そうだぞ。額は言わねぇ……言ったらエリクちびるからな」
「漏らさないよ! ……それでラーメンの値段って、もっと上げたりしないの?」
「値段?」
「こんなに美味しくって、他でも全然食べた事が無いんだよ? もっと値段上げて……少し作るだけで借金返せるくらいの値段にしても、王様や貴族の人に売り込めばいけるんじゃないの?」
野菜を選別する手が少し止まる。
「……それはまぁ、考えた事はある」
「じゃあ――」
「俺はやらねぇぞ」
「なんで?」
野菜を持った俺は吉備丸の正面に回る。
そこで俺は、タッチパネルを操作する。
色々切り替えて――ラーメンの価格を設定する項目で手が止まる。
今は銀貨30枚、ジルバ戦貨10枚で登録されている。
俺が吉備丸で1度でも調理した事があるラーメンなら、いくらでも出せる。
ただし、使った材料は請求される仕組みだ。
つまり収益報告の原価に当たる部分。どういう算出方法かは知らないが、俺のいつも出しているラーメンは銀貨2枚。しかし作ったラーメンの値段はこちらで決められる。
例えば――今、エリクが言ったような原価が銀貨2枚のラーメンを金貨100枚で売る事はできる。
ここの設定を弄ればすぐにでも――。
だが俺はやらない。
何故なら、俺が納得しないからだ。
例えば戦場で売る時にお祭り価格で値上げるのは、店主として納得できる。
危険な戦場へラーメンを出来立てで提供するんだ。
それ相応の金を貰わないと納得できない。
昔、バイトで入っていたラーメン店での会話を思い出す。
そうだ。
俺が20kgの重り付けたベストを着せられて修行していた頃の話だ。
『彦丸よ。例えば砂漠でノドがカラカラで死にかけている富豪がいるとする。お前が持つ水筒に水がたっぷり入っている。お前はいくらで富豪に売る?』
『――100万円。死ぬよりはマシだろうよ』
『そうだな。だが、その富豪が生き残ると必ず周りにこう言うだろう。“あの子供が、ただの水を100万円でぼったくりやがった”と』
『はぁ? 死ななかったんだから、むしろ感謝して欲しーぜ!』
『お前は水筒と100万円を交換したんじゃない。お前の信頼を、たった100万円で売り払ったのさ』
『……分かんねーよ、師匠』
『ラーメン屋は、お客との信頼関係が1番だ。お客はラーメン屋に、値段分最低限の美味いラーメンを期待する。だからラーメン屋はお客からの期待に、最大限答えなければならない』
『……』
『ラーメンはお客との心の絆だ。いずれ店を持てば分かるさ……』
俺のラーメンは、決して安売りはしない。
その上で、俺自身が納得できる形で最高のラーメンを作り上げる。
お客には、自分から最大限の値段を出したくなる、そんなラーメンだ。
だけどな。
俺にはまだそんなラーメンはねぇから――。
「まぁ、色々理由があんだよ」
「えー」
俺はタッチパネルで、あるメニューを呼び出した。
「よっし。エルフの奴らをギャフンと言わせてやるぞ、エリク!」
「う、うん。ギャフン?」




