1.ヴェリアス平原の戦い・初日
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ヴァレン歴107年 春 正午
快晴。
オーヴェスト王国騎士団 100人、民兵 約1000人
VS
魔王従属国 レティシア共和国・オーク&エルフ連合部隊 約5000人
戦争見届人:魔法公国マジカルーナ代表、代理人「最上彦丸」
勝利条件
・互いの本陣陥落
※7日目までに落とせなかった場合、双方引分けとする。
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太陽が真上に来る頃――ついに戦が始まろうとしていた。
「うひゃー、すげー良い景色だな」
主戦場となるヴェリアス平原。
そこがよく見える崖の上に、俺は陣を張っていた。
天を見上げれば、昨日まで続いていた大雨が嘘のように晴れている。
既にオーヴェスト陣営、レティシア陣営。双方配置を完了している。
まず前衛には槍兵中心の部隊が並ぶ。前線を維持する役割を持つ。
さらに大きな盾のみを持っている兵士もいる。これは弓兵による射撃攻撃の対策だ。
こちらも後衛には弓兵部隊が揃えられており、敵を狙う為、あと敵部隊の動きをよく見る為の急ごしらえの櫓が建てられている。
また数は20と限られているが騎兵もいる。これは遊撃部隊、つまり奇襲とかく乱が目的だ。
対するレティシア共和国側は――その殆どが深い森の奥に潜んでいる。
唯一前に出てきている槍兵や盾を持つ兵士。これはこちらと似た編成だ。
確実に森の中に弓兵の他に伏兵を紛れ込ませているだろう。
「まぁ、戦況分析はこのくらいか」
俺は自分の陣へと戻る。
陣――と言ってもここにあるのは、俺の命より大切なラーメンの屋台『吉備丸』。それと騎士団のオッサンに無理言って貸して貰った騎士見習いのエリクと、森で仲間にしたペットのスラ子しか居ない。
そのエリクは……屋台の陰で震えていた。
「おいおいエリク、大丈夫か?」
「だい”じょう”ぶじゃな”い”です”」
「――(大丈夫か? と頭を撫でるスラ子)」
あまり日に焼けていない肌に、栗色の髪とおかっぱ。
人と目を合わせたくないからって前髪を伸ばし過ぎて目元が見えない。
騎士見習い用の簡素な革の鎧のに、上から俺と御揃いの『吉備丸』というデカデカとした習字のようなフォントが書かれたエプロンをしている。
少年のように小柄で華奢だが、女性であることを主張するようにエプロンの文字は大きく歪んでいる。
まだ15歳らしい。
その隣には、魔法生物であるスライムことスラ子がぷるぷるしてる。
水色の半透明の体には小さなお目々が付いている。あと触手のような手が伸びたり引っ込んだり。
生まれてまだ5歳らしいが、人間の言葉は理解できる。賢い!
「ちなみに俺は最上 彦丸だ」
「――(誰に言ってんだ、という目線)」
「なんでボクが、こんな訳分からないお店の手伝いしないといけないんですか!」
やれやれ――という感じでしゃがんでやる俺。
「それも説明したじゃねーか。ラーメン売るのに、俺は作らないといけないからあまり接客できねーんだ……お客様の列を形成して、先払いでこのジルバ戦貨を貰う」
どこかの王様の横顔が掘られた銀貨だ。
戦場での一時的な金銭のやり取りは、全てこの戦貨によって行われ、国や街の換金所で交換して貰える仕組みになっている。
どこの国で発行したか分かるように、裏面には国名が刻印されている。
「食べた器は下げてスラ子に渡す。それだけじゃねーか」
「――(ドンと任せろ)」
「そっちじゃないです! ボクが手伝わないといけない理由です!」
前髪の奥から涙がザーザーと流れている。
「そりゃオメー……俺のラーメン、うめーって言ってくれたじゃねーか。ふっ、嬉しかったぜ……だからオッサンにも、お前を貸してくれって指名したんだよ」
「ああああ……過去のボクのバカぁぁ」
「――(まぁ頑張ろうや、と肩を叩くスラ子)」
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