プロローグ ー中野栄駅ー
※この物語は、過去に発生した事件を基にしたフィクションです。登場人物、団体、場所の描写は全て創作であり、実在の事実とは異なります。
2025年10月21日19時15分
私は仕事を終えて、通勤で使用している仙石線に乗るために中野栄駅にたどり着いたところだった。
今年は暑い時期が長かったが、急激に秋めき、この日の気温は11℃まで下がっていた。普段から寒さに強いと自負しており、13℃までは半袖のシャツで行動する私でさえ、この日の帰宅時は薄いパーカーを着用していた。もっとも、早歩きだったため体は暖まり、背中は汗をかく直前だった。
階段を上り、改札の前まで来たところで普段と違う様子に目を細める。改札を入ってすぐのところで、近所の高校の女子生徒が4名ほどたむろしていた。
定期をかざし改札をくぐると、電光案内板に通常とは異なるテロップが出ているようだった。
(車両故障で遅延かな?)
階段を降りてホームにたどり着いた私は、この時間ではあまり見ない混雑から、遅延が発生していることを察し、スマホのJR東日本アプリを開いた。
私のスマホでは、優先順位の高い場所にJR東日本アプリを配置し、Yahooアプリでも路線の異常が出ている場合は通知する設定にしてある。
仙石線は、使用されている車両が老朽化しているため、普段から故障による遅延が多い路線なのだ。
通勤時もそこそこの頻度で車両故障や点検で遅れることがある。また、今日は関係ないが、悪天候の場合は松島海岸より東側の沿岸部が風雨にさらされやすいため、運休になることも珍しくない。
それでも仙台で働く人たちにとっての重要なインフラの一つだ。自分は仙台から下って出勤する立場だが、多賀城市や塩釜市から仙台に通勤する人はかなり多いのだ。
この時間で遅延したということは、帰宅のラッシュ時間に近く、かなりの混乱を予想していた。
おかしい。車両点検で30分以上停止している。これはいつもの遅延ではありえない。
極めつけは、アプリに表示されていた車両位置だ。陸前高砂駅から仙台方面の各駅、ほぼすべての駅に車両が止まっていたのだ。
何かが起こっている。私はより詳しい状況を把握するために、Yahoo!アプリの運行状況からX(旧Twitter)の最新情報を確認し始めた。




