7二ャ:ツンと甘えたい日
ツンは、ちょっとだけツンツンしている。
いえ、正確に言えば――“だいぶ”ツンツンしている。
撫でようとして手を伸ばすと、「触らないで」とでも言いたげにさっと避ける。
でも、そのあと数歩先で立ち止まって、ちらりとこちらを振り返る。
ねえ、何それ。
まるで「追いかけてきてもいいけど?」って、誘われているみたい。
ほかの子たち――みーたんやサバ太は、どちらかというと甘え上手だ。
ごはんの時間になると「ごはん!」「今すぐ!」とアピールしてくるし、眠くなったら布団の中に潜り込んできたりする。
でもツンは、違う。
静かに、そっと、少し離れた場所にいる。
けれど、そこから私の動きをずっと見ている。
ときどき、気まぐれに膝の上に乗ってくることがある。
ただし、ツンのルールは厳格だ。
撫でるのをやめたら、軽く噛まれる。
気を抜いて手を引こうものなら、ちくりと爪が出る。
――撫でていい時間も、撫でる場所も、撫でる速度も、すべてツンが決める。
それでも私は、うれしい。
たとえ数分でも、ツンのぬくもりが膝にあるだけで、なんだか得をした気分になるから。
* * *
ある日、ふと思った。
「そういえば、ツンが“ごろん”するところって、見たことないな」
猫って、リラックスしているときは、お腹を見せて寝転がったりするものだけど……ツンは、決して見せない。
みーたんは、陽の当たる場所でごろん。
サバ太は、玄関マットの上でごろん。
ふたりとも、誰が見ていようと、気にしない。
ツンだけは、そうじゃない。
“無防備”を許さない猫。
“安心”していても、どこかに緊張を残す猫。
そのプライドの高さが、私はとても好きだった。
だから、その日――
私はまさか、それを目撃するとは思わなかった。
早朝、いつもより少し早く目が覚めて、リビングに行くと、そこにいたのだ。
カーテンの隙間から射し込む淡い朝日。
その光の中で、ツンが――ひとり、静かに“ごろん”としていた。
背中を床につけて、長い前足を伸ばし、あくびをひとつ。
目はうっすら閉じていて、しっぽだけが、ふわふわと揺れていた。
……こんな姿、初めて見る。
私は息をひそめて、そっとその場に立ち尽くした。
すると、ツンはすぐにこちらに気づいた。
ばっ!と起き上がり、ぺろぺろと毛づくろいを始める。
何も見ていませんよ、というような、しれっとした顔。
私は思わず笑ってしまった。
* * *
その夜、私はそっと話しかけた。
「今日の朝、すっごく可愛かったよ」
ツンは、窓辺に座ったまま、知らんぷり。
でも、しっぽの先が、ぽふぽふと揺れていた。
たぶん、ほんのすこしだけ――照れていたのだと思う。
それがなんだか嬉しくて、私は静かに、ツンのそばに座った。
そして、ほんの少しの時間だけ撫でさせてもらった。
もちろん、すぐに噛まれたけど。
それもまた、ツンらしい。