5二ャ:猫たちと好きな場所
私の部屋には、三匹の猫たちのお気に入りの場所がぽつぽつと点在している。
窓辺のクッションの上、ソファの角、押し入れの下段――そのどれもが、ふと目をやると小さな寝息や伸びをしている姿で満たされていて、なんだか心がほっと温かくなる。
だけど、そのお気に入りの場所というのは、まるで生き物みたいに、ゆっくりと、けれど確かに、少しずつ姿を変えていくのが面白い。
昨日は見向きもしなかったのに、今日はなぜかそこが「いちばんいい場所」になっていたりする。それを見つけるのが、毎日のちょっとした楽しみだったりもする。
ツンはいつも、ちょっとすまし顔の女王様。
毛並みは艶々で、長くて立派なしっぽをゆっくり揺らしながら歩くその姿には、どこか貴族の風格すら感じさせる。
朝は決まってキャットタワーのてっぺんに座って、外の景色をじっと眺めている。
ときどき、カーテン越しに差し込む光を前足でちょん、と触るような仕草がとても上品で、まるで日差しと会話でもしているようだ。
でも、ある日突然、お気に入りの場所が冷蔵庫の上になった。
ひんやりして気持ちがいいのか、それとも誰にも邪魔されない秘密基地みたいで落ち着くのかしら?
「ツン、どうしてそこ?」と声をかけてみたら、ツンはちらりとこちらを見てから、ふいっと視線を外した。
……ほんのちょっぴり、照れてるようにも見えたけど、きっと気のせいじゃない。
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みーたんは、ふわふわの中のふわふわを探す名人。
洗いたての毛布、ふかふかのクッション、ソファのひじ掛けにかけたストールの上――柔らかそうなものがあれば、まず間違いなくみーたんが上にのっかっている。
ときには、洗濯物の山にうまく紛れ込んでいて、うっかり畳もうとして「……わっ!」と驚くこともある。
そんなみーたんが、ふわふわに包まれてうっとりしている姿を見ると、こちらまであったかい気持ちになる。
「ここは私の場所よ」と言いたげな顔で動かないから、毎度のことながら「どうぞどうぞ」と譲ってしまう。
洗濯カゴに忍び込んで、背中をうにっと押し込みながらちょうどいい窪みを作る、その職人みたいな動きには思わず笑ってしまう。
なんというか、空間を見極めるセンスが、妙にある子なのだ。
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そしてサバ太。
この子は三匹の中でいちばん繊細で、ちょっぴり臆病。
でも、好奇心は負けてないから、面白そうな音や匂いがすると、とことこ様子を見にくる。
お気に入りの場所はころころ変わって、最近のお気に入りはキッチンマットの上と、玄関の隅っこ。
……どちらも「そこ、くつろげるの?」と聞きたくなるような場所だけど、サバ太は満足げにころんと転がって、舌をちょこっとだけ出したまま寝ていることもある。
たまにドタバタっと走って、滑って転んで、何もなかったふりをしながらのんびり歩いて戻ってくる姿には、こちらも思わず笑ってしまう。
そんなふうに、どこか抜けてて愛嬌のある性格が、サバ太のいちばんの魅力なのだと思う。
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三匹それぞれが、自分だけの「安心できる場所」でくつろぐのを眺めていると、私も自然と呼吸が深くなる。
お気に入りの場所は、ただの場所じゃない。その日その時の気分や、ちょっとした気温の変化、私の行動までもが、猫たちの「ここがいいな」に反映されている気がする。
猫って、思っている以上にこちらの空気を敏感に感じ取っているのかもしれない。
私が忙しくてバタバタしている日は、ツンは高いところから静かに見下ろして、みーたんはそばでじっと座って待っていて、サバ太はどこかでふて寝をしていたりする。
だけど、私が座ってひと息つくと、自然とそれぞれの「お気に入り」からやってきて、そっと隣に寄り添ってくれる。
そういう、小さな優しさの積み重ねが、この日々を特別にしてくれているのだろう。
今日もまた、お気に入りの場所がひとつ、新しく生まれるかもしれない。
きっと明日は、違う場所で寝転がっているんだろうな――そう思うと、明日がほんの少しだけ楽しみになる。
この愛しい三匹の気まぐれと、小さくて静かな日常の変化を、これからもそっと見守っていきたいと思う。