4二ャ:みーたんとふわふわ
朝、ふと目を覚ますと、顔のすぐそばに、じんわりとした小さな重みがあった。
頭の上でなにかがじっとしている。ぬくもりと、やわらかさ。……ああ、まただ。
三毛猫のみーたんが、私の枕の上にのっかっている。
それも、ちょこんと私の頭頂に両前足を乗せて、どこか誇らしげな顔。まるで自分が高性能な目覚まし時計みたいなつもりらしい。
「ぐるる……」と喉を鳴らしながら、じっとこちらを見下ろしているその姿に、思わずくすりと笑ってしまう。
そう、これが、うちの猫・みーたん流の「起床の儀」だ。
ただし時間はきまぐれ。朝の五時だったり、七時だったり。彼女の中の"ふわふわ時間"が始まる合図でしかない。
のそのそと起き上がると、みーたんは一度、私の顔に鼻先をすりっと寄せたあと、すっと身体を伸ばし、ベッドの端へと歩いていく。
そのしなやかな動きの中に、一切の無駄がないのが不思議だ。寝起きとは思えない軽快さで、すぐさま"探検"が始まる。
みーたんは、ふわふわの中のふわふわを見つけ出す達人だ。
毛布、クッション、洗濯物、スリッパ、ラグの端……とにかく、やわらかそうな場所を日替わりで調査して回る。
今日の一件目は、洗濯カゴ。
昨日たたまずに放っておいた、ふかふかのバスタオルが山のように入っていた。
気づけば、みーたんはその中にぬるりと入り込んでいた。
最初に頭から突っ込んで、前足で布をぐいっとかき分ける。
お尻がちょこんと外に出ていたかと思えば、くるんと回転して、今度は背中をぴたりと押し込む。
最後にしっぽをふわっとかけて完成――まるで職人が布団を仕上げているみたい。
中から小さな「ぐる……」という満足げな音が聞こえてきて、私はもう一度、笑ってしまった。
ほんの一瞬だけ目が合って、その顔が「ここ、いいわよ」って言ってる気がしてならない。
でも、ふわふわ探しの旅は、それだけでは終わらない。
お昼ごろ、窓から風が入ってきて、ソファの上の毛布の端がひらりとめくれた。
その瞬間――彼女の耳がぴくりと動く。
寝ていたはずなのに、ぬるりとソファのそばへ。毛布の端をちょん、と前足で触れて、確認。
「これ、もしかして、新入り?」という顔でくんくんと匂いを嗅ぎ、ひとしきり納得すると――中央にくるりと着地。
くるくるくる、と三回ほどまわって、毛布の真ん中に丸まった。
背中を見ているだけで、こちらの心までほぐれていく。
ぬくもりと、やわらかさと、くつろぎのかたまりみたいなその姿。
思わず私も、隣のクッションに腰を下ろして、深呼吸した。
みーたんは、ふわふわを探す小さなハンター。
でもその獲物は、世界でいちばんやさしい場所ばかり。
やわらかさとぬくもりの中に、自分だけの特等席を作るのが、彼女の生きがいなのだ。
そして夜。
私が眠るためにベッドに向かうと、すでに布団がもぞもぞと不自然に盛り上がっていた。
そっとめくってみると――案の定、みーたんが丸まって、ふわあとした目でこちらを見上げていた。
「……もう寝るの?」
声は出さず、ただ目だけでそう語るような顔。
私は小さく笑って、「はいはい、今行くよ」と布団に潜り込む。
今日も、いちばんやわらかい場所は、あなたの特等席。
そのぬくもりに包まれて、私もふわふわの夢が見られそうな気がした。