14二ャ:サバ太とふっくら物語
いつからだろうか。
サバ太が、こんなに立派になったのは。
うちに来たばかりの頃は、それはもう――儚げだった。
私が二十一のとき。
冷たい雨の降る夕方、コンビニの前で小さく震えていた影。
誰にも気づかれず、びしょびしょに濡れたまま、じっと身をすくめていた。
それが、サバ太との出会いだった。
思わず傘をさしかけて、「だいじょうぶ?」って声をかけたとき、
彼女は一歩も動かず、ただ私を見つめ返した。
逃げるでも鳴くでもなく――じっと。
あのときの目は、今でも忘れられない。
生後たぶん四ヶ月くらい。
けれど体は驚くほど小さくて、骨がゴツゴツと浮き出ていた。
濡れた毛の間から、冷たい肌が見えていて、思わず涙が出そうになった。
それから四年。
今やサバ太は、すっかりふっくら……いや、どっしりした猫になった。
みーたんもツンも、同じように食べているのに。
どうして彼だけ、こうまで貫禄が出たのだろうか。
二歳の健診のとき、さすがに不安になって、いろいろ検査してもらった。
でも結果は「特に異常なし。体質でしょう」とのこと。
「ただ、太りやすいタイプかもしれませんね。少し運動も心がけてあげてください」
……運動。そう、そこが難題だった。
というのも、サバ太はオモチャにまったく興味を示さない。
猫じゃらしも、ボールも、羽つきのネズミも。
出した瞬間にふんふんと匂いを嗅いで、ふいっと目をそらす。
ごくたまに、ちょんっと前足で突いてくれるけど、それっきり。
そのあとは決まって、ソファの影や棚の下、薄暗い場所に潜り込んでしまう。
そこから、じっと私の様子を見ているのだ。
最初は「怖がりなのかな?」って心配したけれど、
今ではそれがサバ太の“落ち着く場所”なのだとわかっている。
夜になると、こっそり私の近くに来て、人知れず添い寝してくれる。
あんなに隅っこにいた子が、そっと、ぴったり隣で眠っているその姿が愛おしい。
まるで、「今日もちゃんと帰ってきたね」と確認してくれているみたい。
サバ太は、サバ太なりの距離感で、ちゃんと私に心を寄せてくれている。
だけど――できれば、もう少しだけ運動してくれると、健康には良いんだけどな。
お腹が揺れながら歩いていくその後ろ姿に、つい「ぷふっ」と笑ってしまう。
でも、太っていることを笑ってるんじゃないよ。
のっしのっしと歩くその背中が、たまらなく愛しくて、つい笑顔になっちゃうんだ。
無理はしない。急がなくていい。
けれど、できる範囲で一緒に体を動かしていこう。
……私も最近、お菓子をつまみすぎちゃってるしね。
サバ太、一緒にダイエット、がんばろう?
お日さまがあたる窓辺で、ちょっとだけ歩いたり、
お気に入りの場所まで、少し遠回りして移動してみたり。
そんな、小さな一歩を、今日から始めよう。
だって私は、あなたとできるだけ長く――
このあたたかい日常を過ごしていきたいのだから。