13二ャ:ウンチ探偵
朝の陽ざしが部屋の隅々までゆっくりと差し込む。まだ眠気の残る目をこすりながら、いつものようにキッチンへ向かった。
だけど、その瞬間、足が止まった。視線を落としたリビングの隅に、ぽつんと不穏な影があった。
「あれ……?」
確信した私は、そっと近づいてみる。そこに転がっていたのは、誰かの小さなウンチだった。
「うわっ、これって……」
思わず声に出してしまう。三匹の猫たちは、それぞれ好きな場所でくつろいでいる。だが今日は、私が探偵気取りになるしかなかった。
まずみーたん。
ふかふかの毛布に丸まってうとうとしている。眠そうなまなざしはあまりに無防備で、こんな姿を見て「犯人」なんて思いたくない。
でも、毛布の近くに小さな足跡がついているのを見つけ、心のどこかで疑念がざわつき始める。
「そんなに気持ち良さそうに寝てるのは、用を足してスッキリしたから……?」
次はツン。
窓辺にいて、静かにこちらを見つめている。クールな表情は秘密を隠しているようで、気になってしまう。トイレへ何度も行き来する動きも妙に怪しい。
「私が見てない隙に完全犯罪を狙ってる……?」
そしてサバ太。
彼女は物陰に隠れて様子をうかがっている。
神経質で用心深いけれど、時々ドジをしてしまうあの大きな体が、なんだか妙に不安げで。
「サバ太はあんなに慎重なのに、ドジだからこそやらかすこともあるよな……」
そんな複雑な思いを抱きつつ、推理は堂々巡り。
思い切って、匂いで判別するしかない。
そっと鼻を近づけた瞬間、強烈な臭いに顔をしかめる。
「くっ……臭っ!」
でもすぐに考え直す。
「いや、サバ太のウンチはもっと臭いから犯人じゃない」
匂い調査はここであっさり終了。
そんな迷走探偵の目の前で、真犯人が現れた。
長毛のツンだった。
長い故にウンチが毛に絡まり、知らず知らずのうちにあたりへ"落とし物"をしていたのだ。
しかし、悲劇はそこからだった。尻尾の惨事に気づかないまま彼女は運動モードに入ってしまったのだ。
ふわふわ揺れる尻尾と長い毛はまるで小さな爆弾を抱えているよう。
ツンが部屋中を駆け回る姿に、私は思わず目を見開いた。
「ツン!それ、早くどうにかしようよ!」
気づかない彼女は、ぴょんぴょん跳ねて壁に爪を立てている。いつもの運動会の様子だ。
そして次のターゲットは――
「え?ツン?ちょ、ちょっと待って!動かないで!」
キャットタワーのてっぺんから怪しく緑色の目を光らせるツン。
直後、彼女は猛スピードで私に向かって走り出した。
「いやぁぁ!!!待って待って!!!」
* * *
騒動の後、なんとかツンの毛を拭き終え、私は笑いと困惑が混ざった気持ちでいっぱいだった。
こうして我が家の探偵劇は、見事な大敗で幕を閉じた。
猫と暮らす毎日は予測不能。だけど、その予測不能さが、毎日をちょっと特別にしてくれるのだ。