12二ャ:奇跡の一枚
猫たちの、何気ない日常の可愛さを――
ふとした寝顔、伸びの瞬間、毛づくろいの仕草。
全部、ちゃんと写真に残しておきたい。
そう思うのは、飼い主なら誰だって一度は感じる願いだろう。
そして私も、もちろん例外ではない。
まず、撮りやすさNo.1の、みーたんから狙うことにした。
みーたんは、こちらがスマホを構えるとすぐに「どやっ!」と言わんばかりのカメラ目線。キラキラの瞳でポーズを決める、まるでモデル猫。
カシャ、カシャ――「いいね、いいね~その角度最高~……あっ!」
……ドンッ。
やる気を出しすぎたみーたんは、スマホにそのまま突進。スマホがごろんと落ちて、撮影会はあえなく終了。
「うん、ごめん。でもありがとうね……元気は受け取ったよ」
次は、ちょっと難易度の高いサバ太。
彼女はいつも家具の隙間とか、部屋の隅っこに潜んでいる。こちらがカメラを構えた途端、絶妙に顔だけ影に入り込むという、まさかの撮影回避スキルを持っていた。
「じゃあ、ご飯のタイミングを狙うしか……!」
そう思って、夕食時にこっそりスマホを構える。
サバ太がカリカリに顔を埋めたその瞬間――カシャッ。
……その音に、ビクゥッ!
「ナッ!!?」
驚いたサバ太が勢いよく飛びのき、皿ごとカリカリを盛大にひっくり返す。ばらまかれたご飯、逃げ去る背中、そして空になった皿。
「……ご、ごめん、サバ太……」
おっちょこちょい、なのに肝も小さい。そこがまた可愛い。
そして最後の難関――ツン。
この子は、本当に、写真に写らない。
スマホを向けた瞬間に顔をそむける。シャッターチャンス!と思ったその瞬間、スルリと身をかわし、残るのは背景にぼやけた毛の残像だけ。
「私は記録されない女」みたいな態度に、私のシャッターは今日も虚しく空を切る。
「もう……みんなの可愛い姿を残したいだけなのに……」
溜息まじりにスマホを伏せかけた、その時だった。
ふわっ、と窓から風が吹き抜け、カーテンがふんわりと持ち上がった。
「わっ」
思わずスマホを取り落とし、そのはずみでカメラが起動――カシャッ。
自然に切られたそのシャッター音が、耳に妙に残る。
気になって画面をのぞき込むと、そこには――
金色の光に包まれた、ツンの姿。
カーテンの隙間から差し込む朝の陽光が、彼女の長毛をキラキラと縁取っていた。
こちらをまっすぐ見つめる、神々しいまなざし。
「えっ……神様……?」
思わずそうつぶやいた、その写真は――
しばらくのあいだ、私のスマホの待ち受けになった。
奇跡の一枚。
それは、狙った瞬間には決して撮れない。
ふとした偶然が運んでくる、宝物のような時間。
たとえ写真に納められなくても――
私は、きっとずっと、心に残しておく。