会社
今日は月曜。
ふぅ……。
俺はなるべく下を向き、人を見ないようにして、なんとか会社に辿り着いた。
週末は、案の定、俺はアパートの部屋から出られなかった。
食料は不足気味であったが、買い物に行く勇気が出なかったのだ。
なぜなら、人を見るのが怖かったから。
アレ(脳)を見るのがイヤだったから。
接客すらしてもらいたくなかった。
どうかみんな帽子を被っておいてくれ!!と思った。
今日は会社を休んで、病院に行くことも考えた。
だが……
俺はいたって普通である。
それは俺自身がよくわかっている。
行けばいろんな質問をされ、何種類もの薬を出される可能性だってある。
そうなればきっといままで通りの生活は送られなくなるだろう。とても耐えられない。
誰からも俺のことを悟られぬように、息を潜めてやり過ごしていくしかないのだ。
――
「おい、加瀬」
人相の悪い上司、田邉から声をかけられた。
「こっちに来てみろ」
行くと、俺に任せたい企画があるという。
意外だ。
普段なら、なにか裏があるんじゃないかと勘ぐりの一つでもするのだが、今の俺にはそんな余裕はなかった。
田邉の脳を見たくない一心で、俺は視線を逸らしながら空返事をした。
―――
田邉から仕事を受け取ってからというもの、俺の仕事のペースは上がった。
外部との接触を必要最小限に留め、目の前の仕事に没頭出来る。
今の俺には最適の状態に思えた。
そうして鬼のように仕上げた企画はすんなり通り、俺は周囲からは高評価を得た。
しばらくこういう状態が続いたが、反面、俺は虚しさが募るばかりだった。
仕事で高評価を得、給料をもらい、潤いのある生活をしたとて、それが何になるというのだ。
今の俺は、世界をすべてありのままにみることが出来なくなったし、また、見る気もないのだ。