バスにて
――――
どのぐらい寝ていただろうか。
おそらく20分ぐらいか?
今日は金曜日。仕事の疲れが出たのだ。
寝ぼけ眼で腕時計を見る。
終点まであと15分ある。
もうひと眠りするか。
口の端に付いた涎を拭おうと、頭を上げた。
??????
―――は?!
―――え?!
俺はまだ夢を見ているのか?
瞼をこする。何回かこする。
こすったせいでいったん視界が白くぼやけたが、次第にクリアになってきた。
もう一度、冷静にバスの中を見渡す。
間違いなく俺は起きているよな。
それとも何か?
気が狂ったのか?
なんと、
《《このバスのすべての乗客の脳が透けて見えているのである》》。
乗客たちは一様に前を向き、無言で揺られている。
なんだこれは――
俺は絶句した。
嘘だ、そんなはずはない。
前席の乗客の頭をまじまじと見る。
頭頂部から後頭部真ん中あたりにかけて毛髪は無い。
いや、禿げているというわけではない。
《《頭皮や頭蓋骨が無い》》のだ。
そのかわりに半透明の膜のようなものが頭蓋骨のごとく脳を覆っているのである。そこからうっすらと脳がみえる。
膜はぷにぷにして、柔らかそうな感じだ。
刺激が加わると破けて、脳脊髄液が出てくるのではないかと思うほど。
膜から透けて見える脳は、濁ったグレーにピンクを足したような色だ。
サラリーマンの前に座っているロングヘアの女性も同じである。
暗闇を走るバスの中の、頼りない白色灯でぼんやりと照らされる頭頂部。
その頭の下半分から黒々と伸びる髪が気持ち悪い。
全員が前を向いたまま、脳を透けさせながら一様にバスに揺られているさまはなんとも気味が悪い!!
運転手は?……運転手のモノは制帽を被っているから見えなかった。
――もはや眠気は吹き飛んだ。
大声で叫びたかった。
しかし、俺以外の乗客は至って普通。
誰もこの異常事態に気づいていないようだ。
なんなら、一番前に座っている親子。
母親が「もうすぐバス停に着くから」と、子どもを揺り起こしている。
俺がいま大声で叫び出そうものなら、気が触れている人間だと思われるだろう。
どうすればいいのだ。
このまま気づかないふりをする?
そんなことを頭のなかでぐるぐるぐるぐる考えた。
――ちょっと待てよ。
俺はどう見えるのだ。
窓ガラスに映った自分の頭をみる。
俺の頭部は至って正常だった。
よかった。
いや……ということは、もしかすると、もしかして、逆に、他人からみて俺の頭部が透けているということはあるまいか。
恐る恐る周りに視線を投げかける。
俺は後部座席のほうだ。
俺のうしろに人はいる?
思い切って振り返る。
気だるそうにガムをかんでいる最後部座席のおばちゃんと目が合う。
そのままガムを噛み続けている。
普通の反応だ。
俺は、人様から見たら普通に見えるんだ。
「次は終点〜〇〇〇〇です〜」
おばちゃんの反応にホッとすると同時に、なんとも言えない強烈な違和感を胸に、俺はバスを降りることにする。