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一喜一憂するオーディエンスと婚約破棄

作者: 白雪なこ

コメディです。専門?用語がわからないので、なんとなーくな感じで、ゆるーく、あまーく、読んでいただければ。

 マール王家の末っ子であるランドール王子は、彼の最初で最後の晴れ舞台である、成人祝いのパーティ会場の中央で、その薄い胸と声を張り上げた。


「私、ランドール・マールは、本日この場をもって、ドウモート伯爵令嬢バンカールとの婚約を破棄することを、ここに宣言する!」


 大声を上げた、18歳のランドールは、マール王国の第5王子である。


 第1王子である王太子や彼を支える第2王子には、既に妻子がいる。この国では、王子の臣籍降下先にと新たな貴族家を興すことはないので、次男は王族のまま結婚し、その子供については、王位継承権を与えずに、政治の駒として、他国の高位貴族家へ嫁入りや婿入りをさせている。


 3男、第3王子以降は、成人と同時に王位継承権を抹消し、王家から独立させる。うまく婿入り先が見つかれば良いが、なければ、文官や武官になるしかない。


 昔は神職に就くものもいたが、神殿には、王家に都合の良い名誉職などそんなに余ってないと、数代前から、王家の人間の引き取りは拒否されているのだ。


 王女に関しては、王位継承権を抹消したのち、他国の王族や、国内の有力貴族に嫁ぐ。それが叶わぬものや望まぬものは、王子と同じく、文官や武官となる。


 現在のマール王家の国王は、稀に見る子沢山で、その子供は、10人もいた。王子と王女が5人づつで、3男4男が双子、3女4女5女が3子であった。


 これだけ多いと上の子供以外は、王家に生まれただけで、臣下の貴族家の次男以降と扱いは変わらないし、王子様や殿下ではなく、ただの王子呼ばわりされている。


 そんな王子でも、成人と独立を祝う席だけは、王家の子供として、王宮でパーティを開いてもらえるのだが。


 最初で最後となる、その晴れの席で、第5王子ランドールは、やらかした。


 彼の横には、頭の中身がホニャララの人に見える、縦ロールのピンクの髪に、大きなフリルリボンをつけた男爵令嬢が、ランドールと張り合うかのようにして、薄い胸を張って立っていた。


 二人が並び立つその様は、バカップルにしか見えない。


 そのカップルの前には、ドウモート伯爵令嬢バンカールが、彼女の家の家宝であるソロバーンを模った握り手をつけた扇を開いて、ご満悦な様子で佇んでいた。


「はーい、パーティ会場で婚約破棄、確認しましたぁ」


「はーい、ピンク髪のヒロインもどき、確認しましたぁ」


 会場のどこかでそんな声が聞こえた後、一部の貴族が小躍りし、一部の貴族が肩を落とした。


 そんな会場内のオーディエンス達の反応には気づかず、ランドールはまたもや声を張り上げる。


「ドウモート伯爵令嬢バンカールは、私の愛するピンクチャーンに対し、酷い嫌がらせをしていた!可哀想なピンクチャーンを何度も泣かせたのだ!そんな女を王子である私の妻にするわけにはいかぬ!」


「はーい、浮気宣言と、嫌がらせされた被害者宣言、確認しましたぁ」


 その声に、また、一部の貴族が小躍りし、一部の貴族が肩を落とした。


「あたしぃ、バンカール様にぃ、いつも無視されてぇ!辛かったぁ!お茶会にも呼んでくれないしぃ。声かけても無視されるしぃ!ちょうだいって言っても、ドレスも宝石もくれないのぉ!仕方がないからぁ、髪留め抜いて走ったら、家に王国警備隊の制服を着た、なんか怖い人たちが来たのぉ!そしたら、そしたらぁ!パパが罰なんとかで、お金盗られてぇ、そのあと私は部屋に閉じ込められたのぉ!あたしのものになった髪留めも盗られちゃったしぃ!バンカール様の嫌がらせ、酷いとおもうのぉ!」


「ああ、可哀想に!可愛いピンクチャーンが欲しいと言ったら、ドレスや宝石ぐらい献上すべきだろう!髪留めすら渡さぬのは許し難い!」


「はーい、バカップルによる伯爵令嬢への暴言内容は、冤罪!確認しましたぁ」

「はーい、男爵令嬢が窃盗犯であること、確認しましたぁ」


「バンカール!お前のような酷い女は、国外追放だ!大罪の罰として、私とピンクチャーンに、所持している全ての有り金と宝石を渡して、この国から出ていけ!」


「はーい、王子も強盗犯であること、確認しましたぁ」


 その声に、一部の貴族が満開の笑顔でガッツポーズし、一部の貴族が頭を抱えてしゃがみ込んだとき、ドウモート伯爵令嬢バンカールが、叫んだ。


「いちかばちか、これにて、終了!払戻金は、明日、ドウモート商会で!」


 ひと仕事終えたドウモート伯爵令嬢バンカールは、目の前のバカップルに向かって、満足げに微笑んだ。


「今宵は楽しいゲームを有難うございました。殿下の婚約破棄、謹んでお受けしますわ。お二人の未来については、仲良くお宝が出るかもしれない場所で働くことに決まりそうですし、よかったですわね?まあ、もうお迎えが来ましたわよ。私も仕事がありますので、もう帰らせていただきますわね」


 王国警備隊の制服を着た「お迎え」の人間に、連行されていくバカップルとは反対の扉に向かって、王国最大のブックメーカーであるドウモート伯爵家の令嬢は、今宵の賭場を後にしたのだった。


 おしまい



ブックメーカーとは。さまざまな出来事を対象として、不特定多数の客を相手に、賭事行為を業とする私企業のこと。今回のパーティでは、会場で王子が婚約破棄するかとか、破棄の際冤罪をかけるかとかを予想して賭けていたようです。


お宝が出るかもしれない場所=鉱山労働

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 一部の貴族が落ち込み、一部の貴族が喜ぶのが、まさかそういう理由だったとは。ピンクチャーン嬢はなかなか見ない無礼っぷりで、無視はむしろ優しさではないかと思っていたら、更に観光地の野生猿のような振る舞い…
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