表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/5

Dead End 地を裂く谷 

   第二部 Dead End 地をく谷


 どれくらいの時間がたったのだろうか。香美しゃんめいが目を開けると、その視界しかいに飛び込んできたのは、あの暗い洞窟どうくつではなく、空と雲を映し出す鏡のような湖だった。香美しゃんめいは、わけもわからないまま辺りを見回し、自分のすぐそばに倒れていた愛蘭あいらんと静、英飛を見つけて駆け寄り、みんなの体を揺すった。

てー、ケツがてー、あーたたたた」

英飛はそう言って起き上がりながら、周囲しゅういの異変に気付いた。

「何だ、ここ、ここはどこなんだ?」

愛蘭あいらんや静も顔を見合わせて、けげんな顔をしていた。

洞窟どうくつからワープしたんじゃねえ?」

「まさか、あんた頭おかしいんじゃない?」

英飛にそう言いながら、香美しゃんめい自身も、ワープしたよりほかに説明がつけられなかった。

「あ、私ここ、写真で見たことある。高い山々と仏塔ぶっとうがあって、鏡の湖があって……。最近見つかった、確か、蒼龍湖そうりゅうこっていうの」

香美しゃんめいは、何かの雑誌にっていた写真を思い出した。

「それ、どこ?西安シーアンの近辺?」

「いや、長江ちょうこうの上流域だったかな」

家へ帰れるかと期待して香美しゃんめいに質問した静は、あまりの遠さにびっくりして言葉も出なかった。

「一体どうやって、西安シーアンからそんな南に飛ぶんだよ」

英飛に言われて、香美しゃんめいは言葉にまった。

「他のやつらは?俺たち4人だけ?」

「その辺にいるんじゃない?探してみようよ」

香美しゃんめいたちは、他のメンバーがいないか辺りを探すことにして、湖のまわりを覆っていた森の中へ入って行った。

「蛇!」

「うえええええ」

香美しゃんめいが飛び上がった。

「うっそだって」

英飛の言葉に香美しゃんめいが切れた。

「何でこんな非常事態にくだらないこと言うのよ、マジむかつく」

そこへまた静が、弱々しく

「蛇」

と言ったので、香美しゃんめいはカンカンになって怒りまくった。怒りにまかせて後ろを振り返ると、木のこずえに巻き付いていた蛇と目があった。

「ぎゃーああああああ」

森全体に響き渡るような声をあげて、香美しゃんめいは全力で駆け出した。あわてて残りの3人が香美しゃんめいを追った。

「はあ、はあ、はあ、はあ」

「蛇とか虫とかは、出てくる3分ほど前に教えてよ、まったく」

息をきらしながら香美しゃんめいが静に文句を並べた。4人は地面に手をついて座り込んだ。一息ひといきいれたところで英飛は気付いた。

「おい、人間のにおいがする。10人いや20人ほど、バラバラにだけどこっちへ来る」

「他のメンバー?」

と静が聞いた。

「違う。血のにおいがする。人の死臭ししゅうっていうかいやな臭いもする。普通の人間のにおいじゃなくて、死人の臭い……。嫌な予感がする。危ない、逃げたほうがいい」

緊迫きんぱくした英飛の感じからすると、かなり危険がせまっていると思われた。

「どっちへ行く?道もないけど」

静が英飛に聞いた。

「これだ、これで逃げよう」

あたりの木にはロープのような太い木のつるが何本もからまっていた。英飛は木に登り、つるを引っ張って体重を支えられるか確かめた。そしてエイッとつるに身をまかせ、木のみきを蹴ると、見事みごと、向こうの木に渡ることができた。

「そっちだ、そっちを探せ」

侵入者しんにゅうしゃ、こっちにはいません」

遠くで人の声がした。

香美たちも、急いで英飛と同じように木に登り、つるを使ってとなりの木に飛び移り、木から木へと渡っていった。

「侵入者、発見しました」

「いたぞー、こっちだー」

英飛たちはこの時、自分たちが追われていることを知った。

「こっちだ、つかまえろ」

“ドスッ” 突然とつぜん、英飛の目の前のみきに、矢が刺さった。

「おい、弓矢ゆみやだぞ」

“シュウーン” “シュウーン” 矢は次々に4人をねらって飛んできた。

「急げ、愛蘭、追いつかれるぞ」

矢が飛び交う中、香美しゃんめいが突然止まった。

香美しゃんめい、何してる……」

目の前の大地はそこで終わりだった。まるで地球がそこで切り裂かれたように、その下はがけで、下が見えないほど深い谷だった。向こう側の大地は、こちらよりも少し低く、10みいほどの距離があった。だが香美たちの後ろには黒いきりをまとった敵が、すぐそこまで迫っていた。

「いたぞー、あっちだ」

「矢で射殺いころせー」

香美しゃんめいたちにはもう考えている時間はなかった。

「行こう、飛ぶんだ」

言うが早いか、英飛は木の上を走り思いきり飛んだ。空中でつるから手を放し、向こう側の草原に着地した。それを見た愛蘭も少し助走をつけ、つるに体重を任せると一気に空へ飛び出した。てきが後ろの木から飛びかかってきて、同時に香美しゃんめいと静も大木たいぼくの枝を蹴り、空へジャンプした。


  ――地底城――

“コツコツコツコツ……” 暗い巨大な大広間おおひろまに足音が響き渡る。整列していた者たちに一斉(いっせい)に緊張が走った。そこにいるすべての者は、皆一様に全身黒い衣服を身に着け、薄く黒い霧をまとっていた。

海燕かいえん、子供の捕獲ほかくと鉱物の採取さいしゅ、それとザイアス教の布教活動ふきょうかつどうは進んでいるだろうな。」

玉座ぎょくざから声が響く。すると一人の男が帝王の前に進み出た。

「はっ、今年も各地から子供たちを数十名捕獲し、この城で戦闘教育を受けさせております。鉱物ですが、こちらの鉱山では金と銅を採取しております。ほかに少量ではありますが、玉を採取しております。そして南方の広州付近では、ザイアス教の信者が増え続けており、内陸部にも広がりを見せております。」

「うむ、ごくろう。天界にばれぬよう、ひかえめに事を進めるよう」

「はっ」

「わしは長きにわたり念願であった、この地底界と地上を自由にできる扉を開くことができた。それによってこの地底界、地上、過去、未来、様々な異世界をつなぐゲートを開いたのだ。素晴らしいとは思わぬか?」

「まことに」

「ところがだ、その扉を封鎖ふうさしようとしたやからがいたのだ」

「なんと、なんとおろかな者。そやつらはどこにいるのですか?」

「今より1600年ほど先の未来だ。わしは数百もののろいの手を送り、あやつらをらえてこの617年の世界へ連れてこようとした。しかしまたふとどきな邪魔じゃまが入り、そのせいで移動の途中であやつらを落としてしまった。乙隊おつたい丙隊へいたい庚隊こうたいには、この隋王朝時代ずいおうちょうじだいのあらゆる年に、侵入者がいなかったかくまなく探させてはいるのだが……」

乙隊おつたいより報告です。西暦せいれき600年、長江ちょうこう中流域に侵入者が4名現れ、捕獲ほかくのため乙隊おつたいが追走したところ、2名はがけから転落して死亡したもようですが、2名は取り逃したため、現在なお探索中とのこと……」

「逃がしただと?逃がしたでは許されぬ。海燕(かいえん)丁隊ていたい戌隊ぼたいを更に追加しろ。600年に送り込み、生存者2名を探し出し、この城へ連れてこい。後の隊は、残り6名を全力で探し出せ」

「はっ、おおせのとおりに」

「ことを成し遂げた者には、我が力を一部、分け与えよう。しかし、失敗すれば」

ザイアスは、報告者の近くにいた一人の隊員めがけて、剣でくうった。剣は直接その隊員に触れてはいなかったが、隊員は血を吹き出してその場に倒れた。

「我は、他のゲートに行かねばならぬゆえ、後はお前たちに任せる。我の探している7つの石と、4つの武器を探し出すことも忘れるな。必ず見つけ出し、うばえ!わかったな」

それだけ言うと、ザイアスはそのまま消えた。











評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ