六品目――帰り道のからあげ――
終わりって案外あっけないんだ。
漫画みたいに劇的な展開もドラマみたいに感動の展開もなく、気が抜けるくらいあっさりと笛がなって、夏が終わった。
一度学校に戻って、部室で最後のミーティングが開かれて。
声を上げて泣くチームメイトも居るのに、不思議と人ごとのようにそれを見ていた。先生が話している声は聞こえているのに内容は全く頭に入ってこなくて、今日で全部終わりってことに現実感も湧かない。このまま明日も、朝から練習があるような気がしてしまう始末。
しばらくは部室前で声をかけ合っていた同級生や後輩も一人また一人と去って行った。その輪に交じっていたはずなのに何を話したのかは曖昧で、気づけばその場には一人きり。それでも動く気が起きなくて、眩しいくらいの夕日を背にしばらくぼんやりと蝉の声を聞いていた。
辺りが薄闇になった頃ようやくノロノロと足を動かし駐輪場へ向かったものの、明日からもうこんな時間にここへ来ることもないんだなって頭の片隅で認識した事実すら、やっぱり自分のこととは思えないままで。
それでもずっとここに居るわけにもいかないから、重たい体で自転車をこぎ出した。
何百回と通った帰り道は、ぼんやりしたままでも支障なく辿ることが出来ていたよう。なのに気づけば、練習終わりによく寄っていたお肉屋さんにフラフラと足を踏み入れていたのだ。今日はお腹もすいていない気がしたし、チームメイトと一緒に帰っているわけでもない。だから行くつもりなんて全くなかった。
だけど入ってしまった以上、何か頼まなければ。
財布にはたしてどれくらいの所持金があっただろうかと不安になりつつも、顔をクシャクシャにして迎えてくれたおばちゃんに背を向けることはやっぱり出来なくて、一番安いからあげを頼む。流石に二百円くらいはあったはず……。
恐る恐る覗いた財布にはちゃんと千円が入っていてまずは一安心。
数分後に熱々の包みを受け取って、お会計をして外に出る。
このまま持って帰ったところで家族にあげる程の量もないし……。そう言い訳をしながら、自分の意思と裏腹に鳴き出すお腹の声に従って半ばやけくそでかじりつく。
途端、口に広がる脂と共にありとあらゆる記憶が押し寄せてきた。
練習試合の反省会をしながらチームメイトと共にコロッケを頬張った日のことや、後輩にレギュラーの座を渡すことになって一人からあげを大量に買い込んで泣きながらやけ食いした日のこと、母に頼まれて夕飯のおかずにとチキンカツを買って急いで自転車を漕いだ日のこと。
色んなことが浮かんでは消えていく。
全部全部当たり前の日常だったのに、いまとなってはもう戻れない過去のこと。やり直すことは絶対に出来ない。
ようやく自分事として認識できた現実に心はもうグチャグチャだった。
なのに、なんでもない日のことだって今振り返ってみると全てが輝いて見えて。
「楽し、かったな……。くやしい、な」
後から後から堰を切ったように溢れる涙をそのままに、しょっぱいからあげを貪る高校生はさぞ不審だろう。
しかし、嬉しくても悲しくてもお腹は空くし食べないと生きていけない。人間とはそういうものなのだ。
絶好の号泣タイミングを逃してしまったんだから、ちょっと時間差で感傷に浸るくらいは許して欲しい。明日からはちゃんと、現実を見るからさ。
投稿を始めたとき頭にあった話はこれで全部出し切ったので、一度ここで完結とさせていただきます。
また思いついたらのんびり話を追加していこうと思うので、もし興味を持ってくださった方がいれば気長にお待ちいただけますと幸いです!それではまたどこかで!
しばらくは、投稿中の青春部活もの「我等上州羽球部!」の完結を目指して突き進もうと思います。