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人狼ちゃんのあべこべ転移奇譚  作者: 後ろ向きミーさん
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こんにちは異世界

山での生活は快適だった。

好きな時に狩りをして、好きな時に眠る。

耳をつんざく騒がしい喧噪も、鼻が曲がりそうな過剰な匂いも、ここには無い。本が無いのは少し寂しいが・・・。


今日は少し遠出をして鹿の群れを追う事にした。

初めてくる場所に少し心が躍る。

気が付くと、ずいぶん霧深い所にいた。

霧とはいえ長く留まれば、濡れてしまう。

このまま体が冷えてしまうのはまずいと判断して、適度な穴倉に潜りこんだ。

うとうととまどろんでいる間に霧は晴れたようだ。

穴倉から出てみれば、すっかり夜も更け、満天の星空にカミソリの様な新月が浮かんでいる。

不夜城の様な人の世にいた間には、見れなかった光景だ。


ふいに人の気配を感じる。

こんな奥深くに?

いや、霧に迷って僕の方が、人里深くまで近づいてしまっていたのかもしれない。

まずいな、少し高台にのぼって様子を見よう。

おかしい。

周囲に生えている木々の種類が違う、香って来る土地の匂いにも覚えがない。

眼下には小さな集落が見える。

見えるのだが、明らかに日本家屋ではない。

ヨーロッパとか北欧系の古民家風・・・。

よーく目を凝らしても周囲に電線が見えない、たいまつの様に揺らぐ灯りをもった人がちらほら見えるけど・・・。

うーん、髪の色が、緑に青に水色かー。


・・・・・。

確かに僕は人外です。

もともと人の理から外れた生き物なんだけど、まさかこう来るとは・・・。

えーとこの場合、異世界・・・転移になるのかな・・・。


とぼとぼと集落と離れる様に反対の方角に歩を進めながら考える。

まあ、異世界だろうが、人に関わらず山でひっそり生活してれば同じ事だね。

気にならないって言えば嘘になるけど・・・。


後ろ髪をひかれる思いで、2山ほど越えて離れたのに、なんでこんなに所にも人の気配がするんだか。

風下の木々の間から様子を窺えば、うすよごれた男どもが15人ほどいた。しかもでかい、全員2m越えだ。

冒険者とか?いや、どうみても悪者顔だし、こびりついたすえた死臭がする、多分盗賊ってやつなんだろうな。

殺気?怒気?もめ事?

男どもの中心に、どうみても毛色の違う人が立っていた。

銀の長い髪をゆるく縊った、グレーのローブを着たずいぶんと綺麗な顔立ちの人が、静かに微笑んでる。

ローブには刺繍がされているのか、揺らぐ度に、薄闇の中にキラりとひかる。

「ちょいとお痛が過ぎたね。煩わしいですが、これも義務でね。」

コツッ。

彼が持っていた杖で地面をついたと同時に、男どもの頭上に銀色に輝く巨大な魔法陣が現れた。

男どもの体をすり抜け、そのまま音もなく地面にすっと吸い込まれて消えていく。


魔法陣かー、そうかー、異世界転移決定かー・・・。そっと溜息をつく。


ぐらりと男どもが倒れていく、既にこと切れているのは、心音がしないのでわかった。

一瞬か、怖い怖い。そろりと一歩下がった所で、冷たい声がかかった。


「そこの出てきなさい。」


・・・拒否権はないんだろうなー。

どう考えても逃げ切れる気がしないし、死体の間をすり抜けながら、彼の前まで進んで、少しでも心象を良くしようと行儀良くとお座りをしてみせた。

どうか、僕みたいな動物がこの世界でもいますように。

いきなり化け物扱いされて、討伐なんていやだ。


「・・漆黒の狼?ですが気配が・・・」


何故か戸惑った様子の彼に、首をかしげてみると、おもしろかったのか、ふふっと微笑まれた。思ったより柔らかい笑みに、内心ほっとする。


「どうしました。群れからはぐれでもしましたか?」


もとよりボッチだし、違うと首を振ってみれば、ハッと彼が息をのんだ。


「・・・・・・・お腹はすいてますか?」

首を縦に振る、昨日鹿を狩りそこねたからね。


「・・これ食べます?・・」


よりによって、そこいらに倒れてる死体を指さしたので、ドン引きしつつ首を振る。

この姿では表情がわからないだろうが、そこは気配で分かってもらえた様だ。


「・・きちんと意思の疎通が出来ている様ですね・・。君の様に興味深い子には初めて会いましたよ。」


そうですね。僕も、魔法使いに初めて会ったよ。

そっと頭を撫でられる。

覗き込んでくる彼の瞳はエメラルドみたいな澄んだ緑だった、きれいだな。異世界すごい。


「・・・瞳も黒、双黒とは・・。」


そうこく?あぁ双黒ね

ここは、転生・転移物の定番の、黒色のない世界とか?


「気に入りました。うちに来ませんか?」


魔法使いの家か、面白そうだな。せっかくのお誘いだし行くか。

魔法使いだったら、僕みたいなのでも、受け入れてもらえるかもしれない、自然と尾っぽが揺れてしまう。

こくこくと頷くと、嬉しそうに抱き着いて背中を撫でてくれた。


「名前は・・そうですね、君と同じ色の「夜空」にしましょう。」


―夜空― 僕は、異世界で新しい名前をもらう事になった。



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