さよなら人の世
今の世の中、人外には生きにくい。
自己発信ならともかく、まったく知らない他人から、思いも知らない所で個人情報を開示されていた、なんて事も珍しくないしね。
目立たないように、気付かれないように、気を配って生活する日々。
人のふりをして、人の群れの中で生きている事に、正直疲れちゃった。
だから ー15才の夏― 人の世から消える事にした。
山の中でたった一人裸で見つかった僕は、児童福祉施設と言う所に送られた。
一言も話せない僕は、ここで仮の名前を与えられる。
衣食住には困らなかった。
人としての必要な教育も受けさせてもらえたし。
学校と施設の往復の狭い世界。
唯一楽しい事といったら、本を読む事だ。
知らない場所、知らない知識、空想の物語、本の向こうには広い世界があった。
図書館の静かな空間も大好きだった。
異世界転だ、転移だ、最近の流行りの物語の中は人外だらけなのに、現実は厳しいね。
僕以外の人外は、いったい何処にいるのだろう。
悔やんでいる事は、しっかり体が作れなかった事だ。
今の僕の身長は150センチ足らず、人の世でも小さい。
その原因は分かっている。
単に、肉が足りなかったからだ。
施設で少量のおこずかいはもらっていたが、子供がどうやって大量の生肉が用意できよう。
そりゃ、ぶっちゃければ人も肉だが、さすがに寝食を共にした人をそんな目で見る事も出来ず、今に至ってしまった。
体の成長が止まり、そしてこの先老いる事もないと本能的にわかった事が、僕の気持ちに踏ん切りをつけた。
小さなバック一つ抱えて、手持ちのお金で行ける所まで移動した。
途中、心配されてだろう、いろんな人から、何度も声をかけられる。
夏休みを利用して遠い親族の所に帰郷するのだと答えると、一応は納得してくれたようだ。
僕自身はわからないのだか、どうやら僕の容姿は庇護欲をそそられる見た目らしい、これも人の世で生きやすくする為の擬態の様なものなのだろうか?
人の分け入らない山奥まで来た僕は、小さな穴を掘って、持ってきた荷物と、身に着けた服を全て脱いで埋めた。
「さようなら?ただいま・・かな?」
これで、声を出すのも最後だろう。
ゴキ。ゴキ。メリ。ゴキリ。
不穏なくらい骨の軋む音がする。
大丈夫、戻る感覚は覚えている。
あぁ、小さい僕でも戻ればそれなりのサイズになれた様だ。
これなら狩りも出来るだろう。
ひらりと尻尾を揺らし、僕は久しぶりに全力で駆けだした。




