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おまけのお話 精霊王たちはヒマを持てあましている

(クヴェレ様のお話です)


 ひょいと出現してやる。今まさにキスをしようとしている、リリアナと魔術師のすぐそばに。

「ファーストキスをするには、いささか色気がなさすぎる場所ではないかと我は思うぞ」


 言い終える前にふたりは盛大にびくりとして、離れた。

 我を真っ赤な顔でにらみつける魔術師。


「どうして、いつもいつも邪魔をするんだ! クヴェレ様のせいで、こんなところになっているんじゃないか」

「我の通り道にそなたらがおるのぞ」

「嘘つけ! クヴェレ様、欲求不満か! 可愛い彼女だか彼氏だかを作れ!」


「確かに彼は欲求不満ではあるな」

 そんな声と共にテッラが我の隣に現れた。

「久方ぶりの愛し子と、遊びたくて仕方ないんだ」

「そうではないぞ、テッラ。我は、魔術師をからかうのが楽しくて仕方がないだけぞ」

「――だそうだ」


 魔術師はプルプルと震え、優しいリリアナが宥める。良い図ではないか。ふたりの親睦を深めるにも丁度よいと思うぞよ。

 と、リリアナがテッラを見る。

「ひとつ、お尋ねしたいのですが」

「なんだ?」

「愛し子は辞めることができるのでしょうか」

「リリアナ!?」


 リリアナは我を見て、首をかしげる。

「わたくしが不勉強なことがいけないのですけど、よく考えたら期間などの詳しい説明を受けておりませんの」

「なるほど」テッラが笑う。

 いや、笑い事ではないぞよ!

「愛し子は精霊王側からしか間柄を解除することができない」

「そうですの」肩を落とすリリアナ。「あんまりエドに意地悪をするのなら、辞めさせていただくしかないと思ったのですけど……」


 リリアナの目は悲しげだ。


「……わかったぞよ。愛し子に辛い思いをさせるなど、精霊王のしてはならぬこと。改めるとしようぞ」

 ぱっと顔を輝かせるリリアナ。

「ありがとうございます!」

「うむ」

 だが魔術師は、疑い深い目を我に向けている。可愛くないぞよ。


「魔術師よ、そう疑うな」とテッラが笑う。「クヴェレは私が連れて行く。これから精霊王の集まりでな」

「我が集合をかけたのぞ」

「愛し子の自慢をするためにな」

「よいではないか。みなとて、我らを見ることのできる人間がまだいたと知ったら、驚くぞよ」

『まあな』と応じたテッラは、我の襟首を掴んだ。


「なにをする。我は猫ではない」

 くすり、と笑うリリアナ。

「ではな、人の子。しばらく留守にするから、泉のもとで存分に楽しむがいい」

 テッラは我を無視して彼女たちにそう告げると、返事も待たずに移動した。


 集いの場に出る。

「テッラ、ひどいぞよ」

「待たせてる」


 テッラの視線をたどると、たしかに精霊王の円卓にはすでに、火のフォーコと風のウェントスがついていた。

「遅いぞ」とフォーコが不機嫌に言う。

「クヴェレのせいだ。遊んでいるから」とテッラ。

「ふふん、皆の者、聞くがよい。我は愛し子を持ったのよ」

「へえ」とフォーコ。


 ――おかしいぞよ。思っていたほど、驚かない。


「千年を経て、俺らを認識できる人間が増えてきたのか?」とフォーコ。「ウエントスもなんだよな」

「なんと!」

 ウエントスを見ると、彼奴(きゃつ)はおもむろに頷いた。

「ええ。つい最近、五年ほど前ですが」

「クヴェレよりは前だな」とテッラ。


 むむむ。


「しかも、魔法が使えるんだってさ」

「それは、すごい。クヴェレの愛し子と一緒だな」とテッラが我の代わりに勝手に教える。「ついでにこっちは、あの(・・)魔術師もセットだ」

「へえ。それは、また」

 と言ってフォーコとウエントスは顔を見合わせた。


「魔術師は、悪いヤツではないぞよ。かつては愚かな面もあったかもしれぬが、今は反省して頑張っておる」

 クッとテッラが笑う。

「……なにかおかしいかの?」

「いや。クヴェレは相変わらずだなと思っただけだ」

「失礼ぞよ」


 テッラをほうっておいて、席に着く。空いているのは、残り三席。だが彼奴はわざわざ我のとなりにすわった。そなたとて、淋しん坊ではないか。


「して、ウエントスの愛し子はどこで魔法を学んだのぞ?」

「独学です。遺跡から魔法書を発掘したそうで――」

「字が読めぬだろう」とテッラが遮って疑問を呈する。

「それは私が教えました」

「ていうかさ」とフォーコ。「これ、魔法復活の兆しじゃないか? クヴェレ、魔術師に伝道師をやらせろ」

「嫌がると思うぞよ。千年が経っても、あやつはまだ魔術師狩りに傷ついている」

「だな」とテッラが同意してくれる。

「では私の愛し子との交流はどうでしょう。彼女はひとりで苦労しておりますゆえ、師がいれば助かるはずです」


 交流。あの魔術師は、面倒がりそうに思えるが、リリアナは喜ぶであろう。


「そなたの意見は伝えるぞよ。どのような答えが返ってくるかは、わからぬよ」

「だが、いいな」とテッラが呟く。「魔法がふたたび日常的なものになれば、私たちの退屈は解消される」

「愛し子がいれば、俺らの世界は煌めくな」とフォーコ。

「妖精たちも愛し子の存在に喜び、魔法の復活にやりがいを感じております」


 王たちの意見も気持ちも、よくわかる。我もこの千年、つまらぬと感じておったのだからの。

「……わかったぞよ。魔術師を説得しようぞ。だが期待はしてくれるな。我は第一に、愛し子とその伴侶を守る」

「当然だ。それができぬものは精霊王の資格はない。――あ」


 テッラが己の失言に気づいたようで、気まずげに口を閉じだ。


 ふと、あのリリアナならばルクスも起こしてくれるのではなかろうか、と思いつく。

 もしそうなったならば――

 

 いやいや。リリアナと魔術師は今、いちゃいちゃするのに忙しいぞよ。あれもこれもと頼むのは、可哀想というもの。我ももっと邪魔をして遊びたいしの。


「ところで、クヴェレ」とフォーコ。「なんで俺らは集められたんだ?」

「むろん。愛し子を自慢するためぞ」


 テッラが肩をすくめ、フォーコは『なんだよ』と興味が失せたように呟く。ウエントスだけが、

「それならば、私も」と身を乗り出した。

「待つぞよ、まずは我のリリアナからぞ。彼女は美しい心根を持つだけでなく、非常に強く賢いぞよ。というのも――」




《おわり》

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