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◇◇


この人は一体何を言い出したのだろう、とリディアはパニックだった。

いやがらせでひたすら出される食事に毒草を曳いてスパイスのようにかけ続け、うっとりとした顔を続けていたらさすがに伯爵家から嫌がられて追い出されると思っていたのに、よりにもよって侍女が逃げ出したから自分が世話をすると言い出すとは。


「英雄様はなにかおかしなことをおっしゃっておられますわ・・・」

「そうだな、すまない。あなたのような高貴な女性に侍女をつけられないなど、伯爵家の名折れだと俺も思う。思うんだが、申し訳ないが我慢してもらないだろうか・・・」

「そうではなくて!」


どうしてこの人はどんどんずれていくんだ!とリディアは怒りさえ覚えた。

表情にはあまりでないが、雰囲気でアクセルがしょんぼりとしているのは感じられた。案外わかりやすい。

それにしてもなぜ彼が怒られているかのようになっているのか。


リディアはついにぶちまけてしまった。

腹の探り合い、化かしあいなら散々王城でしなければならなかったが、こうも素直かつ親切としか思えない反応されるのは慣れていない。


「いいですか、英雄様!わたくしはいわば招かれざる客なわけです!それをあなた様の屋敷においてというところがまず間違ってます!追い出してください!ええもう、さっさと!」

「そんなことできるわけない」

「なぜですか!」

「真ん中の兄が言ったはずだ。あなたが外の世界に放り出されて生きていけるわけがない」

「そうではなくて!なぜ、あなた方はわたくしのことなど気にされるのですか?わたくしとあなた方はなんの縁もございませんわ。ほんの数日前にお会いしただけの、それも、こことは正直相対する立場の王家の血を引く人間です」

「あなたが王家に生まれたくて生まれたのではないのだろう」


アクセルの深い緑色の瞳がじっとリディアを映した。あまりにまっすぐな視線にリディアはひるむ。


「それは・・・そう、ですが。でも・・・」

「か弱い立場のものを守るのは我々の務めだ。それが誰であろうとも。救える力を持つ者が手を差し伸べるのがあるべきだろう。俺はあなたよりも強い。だからあなたを守る義務があると思っている」


迷いなくそう言える彼に胸が震えた。

あの王都で、誰一人、そんな心根を見せてくれた人はいなかった。

彼がなぜ、英雄となったのか分かった気がする。

彼はやれるべきことを実直にやったのだ。

誰かを守るために、その力を正しく使ったから、この結果があるのだ。


「その・・・俺になにかされるというのは嫌だと思うが、できるだけ顔を合わせないようにはする。だから出奔したいなどとは言わないでほしい。俺の屋敷にいるほうがまだ安全だ」


黙り込んでしまったリディアを、アクセルは嫌がっているのだと思ったらしい。

大きな体をすぼめて、リディアを見ないようにぼそぼそと言った。


「俺のことは、信用できないと思うが・・・」

「そんなことは・・・」


そんなことはない、とリディアは伝えたかった。

彼の心は素晴らしいものだと。その優しさがうれしいのだと。


でもリディアはその言葉を飲み込んだ。


(・・・この人をこれ以上巻き込んではいけない。くだらない、民も助けようとしなかった王族のことなんかに)


「・・・困りますわ。わたくしは、あなたの・・・妻になるつもりは全くないのです」


(本当は、あなたが英雄だと知って嬉しかったけれど)


自分がこんなにも厄介なものを背負っていなければ、その優しさに喜んで手を取れた。

でも、リディアの脳裏に『そいつも殺してやる』という恐ろしい脅しがよみがえる。


『お前に男が触れたらそいつもこうして殺してやる。お前は私のものだ』


ぞっとする響きは、リディアを長年悩ませてきたものだ。

巻き込めない、とリディアはもう一度思った。

“あの人”は狂っている。


「だからどうぞ放っておいてくださいませ。お願いですから」


助けを期待することなどとうに捨てたのだ。


「わたくしは、もう、自由になりたいのです」

「外でのたれ死にしたほうがましだと?そんなに俺が嫌なのか?俺は何もしないと、そう言っているのに。信用できないか?」

「・・・申し訳ありません。わたくし、殿方の言うことは信用しないようにしておりますの」


言外にあなただけを嫌がっているのではない、と伝えた。

あなたが嫌だとそういえば、きっと彼もあきらめただろうと思うのに、言いたくなかった。


(ほんとうは、嫌われたくないわ)


森で出会っただけの小娘を心配し、無茶な望みにも付き合ってくれた人。

自分が助けられると思った人を素直に助けようとする優しい人。

リディアがにこりと笑いかけただけで顔を真っ赤にしたくらい擦れてない、かわいい人。


リディアはまつげを揺らした。


「だから、わたくしは、あなたに世話をされるのは絶対に嫌ですわ」

「・・・では、この家の人間ではない者を使用人として探そう。あちらの領地のことはあまり知らないが人はいるだろうし、なんとかする。とりあえず、ドイルが住めるというくらいだから、生活するには支障がないだろう。そろそろ、屋敷に移ろう」

「ちょっと!わたくしの話を聞いています!?」


しかし、アクセルはリディアの拒絶を全然受け入れてくれない。


「俺に世話をされるのが嫌だという話なら、違う人間を探す。少し時間はかかるかもしれないが。その間、俺はあなたに近づかないようにする」

「だから・・・!わたくしは外の世界にいきたいと!」

「民草に交じる前に、その勉強と思ってくれたらいい。使用人も満足につけられないし、平民の生活に近いだろう」

「わ、わたくし、殿方と同じ屋敷は嫌ですわ!」

「大丈夫だ、俺は森かこちらの城に基本いるから。朝と夜だけ警護に行く。昼間は俺の部下の護衛騎士に任せればいいだろう。騎士は別の住まいがあるからあなたと同じ屋敷には住ませない」

「・・・領地とこことは離れているのでは?」


ドイルに聞いた話では、アクセルが王に与えられた領地はここから馬車で2日ほどのところだという。伯爵領の半分以上にもおよぶ大きな森を迂回した、さらに東なのだと。

気候がよく、作物もよく育つ肥沃な土壌でよい土地だが、いかんせん、森の近くすぎて貴族は寄り付かないのだと聞いた。


はっ、とアクセルが口を覆った。失言だったらしい。


「いや、その・・・森を抜ければここにもすぐに戻れる。俺以外誰も通らない道があるんだ」

「森の中を抜けるのですか?しかし、魔物がでなくともやはり森は危険だと・・・」

「俺は、大丈夫なんだ」


それ以上は言うつもりがないとわかる強い口調で彼は言う。

だが、視線が合わない。いつもまっすぐに人を見るのに。隠しごとがあるのだとわかった。

リディアとて言えないことだらけなのに、彼のその様子になぜだか悲しい気持ちになった。


「わたくしは、あなたに保護される理由がありません」

「理由がいるなら・・・対外的にはあなたは私の妻だからだろう」

「そうなる気はないとお伝えしましたわ」

「対外的には、と言っている」

「あなたの屋敷に住むなど、周りから事実として見られては困ります」

「困る・・・だが、俺としては妻となる女性を放逐したと言われても困る」

「私は、死んだことにしてほしい、と言っているじゃありませんか!」


強情なアクセルと先ほどからのささくれだった感情につい素の口調が出てしまった。


「私は、ここに存在してはいけないのです!」

「なぜ?」


だが、アクセルの低い声に、慌てていつもの“公女”然を取り戻す。


「・・・自由になりたいから、と何度も申し上げています」

「自由にしてくれていていい。何か行動に制限をかけるつもりなど全くない。ただ、安全なところに住んでいてくれ、とそう言っているだけだ」

「す、住むところも自由がよいのです」

「ではどこがいいんだ?手配しよう」

「そういうことではなくて・・・!」

「どういうことなんだ?」

「だからっ、わたくしに構わないでほしいと!」

「構わないと言っている。俺は護衛だと思ってほしい」

「英雄様が護衛だなどと・・・!」

「何が問題なのだろうか?すまない、俺にもわかるように言ってほしい。理解できるように努める」


実直な言葉についにリディアは詰まった。

アクセルの金がかった不思議な緑の瞳を見ていると、じわじわと頬が熱くなってくる。

そこに割って入ったのはリジーナだった。


「リディアさま、ここは英雄様の言うとおりになさっては。私もまともに住むところがあるほうがありがたいです」

「リジー・・・!!」


まさかの侍女からの裏切りに、リディアは非難の声を上げたが、アクセルは頷いた。


「やはりあなたは健全な危機感をお持ちだな。ありがたい」


完全にばれている。あの森で同じセリフを聞いたことを思い出して、リディアは脱力してしまった。


「では、用意をしてこよう。あなたが移動するとなるとそれなりに日数もかかるだろうから、その前に、最低限屋敷を切り盛りする人間を見つけておく」

「英雄様、私がリディアさまのものをまとめます。リディアさまのお世話についてはお任せいただければと思いますが、できれば移る屋敷のほうのことでお話させていただいても?」

「構わない。大変助かる」


リジーは完全にアクセルの味方に付いたようだ。彼が悪意も下心もなく手を差し伸べているのを見極めたというところだろう。


「かっ、勝手に話を進めないで!」


この中で一番身分が高いはずのリディアの命令は、むなしく宙に浮いたままだった。


◇◇


「アクセルさま、申し訳ありません」


アクセルの名前を呼んでくれるようになったのは、リジーナが先だった。

気さくに話してほしいと伝えてから、リジーナはアクセルを見かける都度、ぽつりぽつりとリディアの話をしてくれるようになったのだ。


「何がだ?」

「リディアさまが無茶苦茶言って」


食事を美味しくない!と主張したリディアを思い出して、アクセルはわずかに口の端を上げた。


「ああいうことを言いたいわけじゃないんだろう」

「・・・よくお分かりで」

「声のトーンが違う。心苦しそうだ」

「アクセルさま、すごいんですね」


リジーナが感心したように目を見開いた。


アクセルの領地の屋敷に移ってから5日。宣言どおり、アクセルは朝と夜だけ屋敷にいて、昼間はほとんど寄り付かなかったが、アクセルが近くにいるたび、リディアは癇癪を見せていた。

食事がまずい。毒を抜くな、と騒いでいる。


「そうは言っても彼女の意に沿えていないので、今日は味付けを変えてみたのだが。しびれるのがいいと言っていたので、毒性のない山椒の実を入れてみたが気に入らなかったようだ」

「・・・アクセルさま、死ぬほど真面目ですね」


リディアがわざとやっていることにいちいち全部付き合おうとするアクセルに、リジーナは苦笑した。


「嫌だという彼女にここにとどまってもらっているのだから、せめて快適に過ごしてもらいたいと思っているだけだ」

「だから真面目だというのです」

「とっつきにくいとはよく言われる」

「もう少し表情に出せばいいと思いますけどね」

「これは・・・騎士たるもの硬派であれと亡き父に教わったので」

「兄君たちはそうでもないようにお見受けしますが」

「俺は兄たちより小さい頃から騎士団に入ったからかもしれない」

「教えをそのまま受け継ぐのはやっぱりアクセルさまが真面目だからだと思いますよ」


そうか?とアクセルは首を傾げた。

そういえば、リジーナは自分を怖がらないな、とふと思った。


「あなたは俺が怖くないのか?」

「怖い?どうしてです?ああ、最初にお会いしたときはいきなり出てきたからびっくりしましが、こうしてあなたさまの人となりを知れば何も怖くなどないですよ」

「・・・そうなのか」


アクセルは相手が怖がっていると思うとそれ以上近づこうとしなかったししゃべろうとも思わなかった。

それが誤解のもとだったのかもしれないとリジーナに言われて気が付いた。

けれど、いまアクセルの頭に過去を後悔する余力はない。あるのは、美しい紫の瞳がどうしたら最初に会った時のように輝いてくれるかといいうことだ。毒草を食べるのは抜きにして。


「彼女も俺を怖がってないといいが」

「リディアさまですか?リディアさまは全然怖がってないですよ。むしろ・・・」

「リジー!なにしているの?!」


庭で話していた二人を見とがめたのか、リディアが屋敷の二階から声を張った。

伯爵家と比べればささやかでしかないバルコニーで、日の光を浴びて金色の髪が輝いている。


(きれいだ)


アクセルはそれに見とれた。まるで光にあこがれる羽虫のように、近づきたいとさえ思ってしまう。

思うだけなら、自由だろうと自分に言い訳しながら。


「・・・もう、怒るくらいだったら、自分で言えばいいのに」

「何を?」


リジーナのほんの小さなつぶやきを聞き取ると、彼女はぎょっとしたようだった。ずいぶん小さな声だったから聞こえていないと思ったらしい。

アクセルは、常人とは違うのだ。

聞きたくないものまで、いまは簡単に聞こえるようになってしまった。


「すまない、聞こえてしまった」

「あ、いえ、すみません。驚いて。その、リディアさまは、結構気にしているのですよ」

「?何を?」

「あなたに・・・無茶ばかりを言ってることを謝りたいと。せっかくの好意を無駄にしていることを本当は悲しんでいます。リディアさまは本当はとても思慮深い方ですから・・・」

「リジー!戻ってきて!」

「すみません、私からはこれ以上は。失礼します」


リジーナが頭を下げて去っていった。


(謝りたい?悲しんでいる?)


リディアの仮面のように感情が読めない笑みを思い出す。


『こんなものとてもまずくて食べられたものではないですわ』


そして自身の要求通りに毒草を入れられた時のうっとりとした微笑みも。


『やっぱりこの舌の痺れがないとわたくし満足いきませんわ』


ぺろりとピンク色の唇を赤い舌が行儀悪く舐めたその瞬間もついでに思い出して、かあっとアクセルは頬を染めた。


(・・・っ馬鹿か!)


慌てて自分で自分の頬をはたく。

あの美しく誇り高い女性を頭のなかで汚してしまったことが許せなかった。


(しかし、本当に、なんとかしたほうがいい)


色を失いかけているリディアの指先を思い出して、アクセルはぎゅっと眉を寄せる。

リディアは化粧でごまかしているが、顔色も唇の色も決して良くない。

毒を摂取しつづけて平気なわけがないのだ。



(同じような味のものが、ないものか)


今日も今日とて、アクセルは森に行って、彼女のために献身的に頭を悩ますのだった。


◇◇


その少し前。リジーナを呼び戻したリディアは侍女を責めていた。


「リジー、ひどいわ!どうして勝手にお話しているの?!」

「リディアさまが、せっかく趣向を凝らしていただいた料理も放り投げてもういい加減嫌われたかもしれない、って悲しんでいたから代わりに話に行ってました」

「代わりに話さないで!どうして?リジーは私の味方じゃないの?!

「味方ですよ。私はずっとリディアさまの味方です」

「だったらどうして!」

「・・・アクセルさまなら、リディアさまを救ってくれると思うからです」


リジーナはいい加減、この不幸な主に幸せになってほしかった。

無礼を働き続けるリディアに対して、無条件で尽くしてくれるアクセルならそれができると思っているのだ。


「っアクセル・・・さまって!なんでリジーが名前で呼んでるのよ!!」

「リディアさまが私と二人の時はそう呼んでいますし、アクセルさま自身も英雄と呼ばれるのは好きではないとおっしゃっていたので」


何より、リディアが、リジーナがアクセルの名前を呼んでるくらいでそんなにも嫌そうな顔をするくらいだから。

リディアは7つの頃から見守ってきた大切なお姫様をアクセルに委ねようと思っている。

リディアの気持ちがどうあるかなど手に取るようにわかる。

いつもいつも、ただ感情を殺して生きてきたリディアがやたらと彼にこだわるのだから、おそらく好き、というレベルなのだろう。こちらの意図どおりに動いてくれない彼に苛立って声を荒げるのも初めて聞いたくらいだ。


「リディア様も意地張ってないで呼んだらいいじゃないですか。きっと喜びますよ。あの人、かなり素直ですから」

「ででできるわけないでしょ!?今更どんな顔して・・・っ」


そう、こうやってリジーナに食って掛かるのも初めてなのだ。


「どんなって、リディアさまお得意のにっこりで呼んであげたら、アクセルさまきっと真っ赤になりますよ」

「そんなわけないじゃない!最近は全然そんなそぶりないんだから!」

「ああ、リディアさま、社交用の微笑は全然響いてないから、素の方で。なんならもう普通に話したらいいじゃないですか。ときどき取れてますよ、淑女の仮面」

「仕方ないでしょ?あの人話が全然通じないんだもの」

「確かにアクセルさまってバカ正直に話を受け止めますよね」

「・・・アクセルさまって連呼しないで」


ぽつりとつぶやかれた本音にリジーナは思い切りため息をついた・。


「私ごときに嫉妬するくらいならもう素直になったらいいじゃないですか・・・」

「嫉妬なんてしてないわよ!」

「じゃあ、私がアクセルさまって呼ぼうが彼を好きになろうが勝手ですね」

「すすすすきなの?!!」


リディアが顔を真っ赤にして叫んだ。涙目である。

リジーナは取り澄ました顔で頷く。


「好きですよ。王城の人たちのように薄情じゃありませんし」


なによりリディアさまを大切にしようとしてくださっているから。


それは言わないでおいたところ、リディアはかなりショックを受けているようだった。


「リジーナ・・・あなたは、その、私の大切な侍女だわ。友人でもあるし、姉妹のようにも思っているわ」

「大変光栄です、リディアさま」

「で、でもその・・・あの・・・アクセル、さまは・・・名目上とはいえ私の、お、夫であるわけで・・・あの、だから、リジーナでも渡せないわ・・・」


しどろもどろのリディアが泣きそうなまま訴えてくる。

本当にアクセルを取られてはたまらないと思ったのだろう。

さすがにここまでとは意外で、リジーナは早々に観念した。


「好きってそういう意味じゃないですけど」

「えっ?」

「尊敬しているって意味です」


嵌められた、とリディアはこれ以上ないのではないかというくらいに、熟れた朱色になった。


「リディアさま、そんなにも好きなら、素直になればいいじゃないですか」


両手で顔を覆って、その場にうずくまってしまったリディアの前に、リジーナはそっとひざまずく。優しく主の肩をさすった。


「・・・無理よ。殺されてしまうわ」

「英雄を殺せる人はいないのでは。なにせ魔竜を倒したくらいですし」


リジーナは普通にそう思う。人であの人に敵うものはいないのではと、客観的に。

けれど、骨の髄まで恐怖に支配されているリディアはそう思わないらしい。


「だって“あの方”は手段を選ばないわ!この領地も伯爵領だって何をされるか!罪もない人がまた巻き込まれるのよ!」

「・・・リディアさま、その前にアクセルさまに相談しましょう。きっといい策があります」

「ないわ!そう言って、私を助けようとして、何人が亡くなったと思うの?!」


リディアの脳裏にあるのは、赤だ。

リディアをどういう意図であれ手助けしようとした人、リディアに触れようとした人は、例外なく排除されてきた。その人にかかわる人もすべて巻き添えにして。


『お前が逃げようとするからこうなるんだよ』

『私からお前をかくまおうとする人間は全部除いてあげる。お前は私のものだから』


王家はとっくに狂った男に支配されているのだ。この国の王弟に。

もう王ですら止められない。


『リディア、逃げなさい。わしは間違ったことをした。お前の母を信じられず、不幸にした。せめてお前だけはここから出て、幸せになりなさい。それがわしの償いだ』


(伯父様・・・)


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