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第2章 39 通報

 その姿があまりに哀れで…自分のことながら涙が出そうになってしまった。


「…くっ…」


歯を食いしばり、気を失った卓也を抱きかかえて部屋に運んだ。

邪魔な荷物を無造作に足でどかし、卓也を寝かせられるスペースを空けるとスマホを上着から取り出した。


「…もう限界だ…。このままでは子供時代の俺が奴に殺されてしまうかもしれない…」


そうなったらどうなる?

きっと俺はこの世界から消えてしまうだろう。そんな事…絶対にさせるか!


スマホを再度力強く握りしめ、番号をタップすると耳に押し当てた。


「待ってろよ…卓也。今、助けてやるからな…」


部屋の中で意識を失っている卓也を見ながら呟いた。


トゥルルルルル…

トゥルルルルル…


何回目かのコール音の後、電話が繋がった。



『はい、児童養護施設こども園です』


女性の声で応答があった。


「すみません。近所で酷く子供の鳴き声と…その子供を怒鳴りつける男性の声が聞こえたので電話しました。場所は…」


俺は…自分がかつて子供時代から高校卒業まで世話になった児童養護施設に電話を掛けた―。




****


 約40分後―。

 

 物陰から隠れてアパートの様子を見てみると、児童養護施設の車がアパートの前に到着した。

そして中から4人の職員が慌てた様子で車から降りると、アパートへ向って行く様子が見えた。


「恐らく、もう大丈夫だろう…」


物陰からその様子を隠れてみていたけれども、まだ卓也があのアパートから連れ出される様子を見るまでは安心できない。

そこで俺はもう暫くその場にとどまって様子を見ることにした―。




 そこから30分以上の時間が経過した。


「まだか…?」


俺はヤキモキしながら様子を伺った。


一体何をしているんだ?


卓也は酷く殴られ、意識を失っている。そして不在の親に見知らぬ相手からの通報。

これだけ条件が揃えばすぐにでも卓也を運んでやってもいいだろう?


「何やってるんだよ…ん?!」


ついにその時間が訪れた。

マンションのドアが開き女性職員が出てきたのだ。女性はドアが閉まらないように抑えると、次に男性職員が出てきた。その人物はぐったりしている卓也をおんぶしていた。


「やった…卓也を救出してくれたんだな…」


これでもう大丈夫だろう。俺は全員がアパートを出て、卓也と共に車に乗り込んで走り去っていく姿を確認すると現在賃貸中のマンスリーマンションへと戻った。



「…これでもう大丈夫だろうな…」


部屋に戻り、コーヒーを口にしながら呟いた。


そうだ、最初からこうしておけば良かったんだ。


隣の部屋で卓也が暴力を振るわれている姿を見れば、彩花は関わることがないだろう。そうすればあいつから恨まれることもなく…彩花は殺されずに住むのだから。


けれど…こんなことでは彩花を救うことが出来ないと知るのは…俺が彩花と親しくなってからのことだった。


そして、そこから本当の意味での絶望を…俺は味わうことになる―。







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