第2章 33 思いがけない再会
あのアパートの外階段の下…。
あそこは子供時代の行き場を無くした俺がよく座っていた場所だ。あの場所でアイツからの暴力を逃れていたこともあったし、彩花が仕事から帰ってくるのを待っていた場所でもある。
果たして…今、あの場所に子供時代の俺はいるだろうか…?
外階段に向って歩いていくと、階段下にうずくまる子供の姿があった。
あ…あれは…っ!子供の頃の俺だ…っ!
痩せた身体にサイズのきつい服…。あの頃の惨めな姿の俺が外階段の一番下に座っていた。
さて…何と声を掛けようか…。
この頃の俺は大人の男に対して警戒心を抱いていたから簡単に話しかけるわけにはいかないだろう。
そんなことを考えていると、子供時代の俺が顔を上げてこちらを見た。
その顔には…唇の部分が紫色になっていた。
そうだった。
確か引っ越してきたこの日…アイツは酷く機嫌が悪く、腹いせ紛れに俺は暴力を受け…唇を切る怪我をしていた。
それで逃げて…行き場が無かった俺はこのアパートの階段下に座っていたのだ。
「「…」」
卓也は俺を見上げ…子供時代の俺と少しの間、目が合ってしまった。
ま、まずいっ!
すると…。
「あ!ご、ごめんなさいっ!」
子供の頃の俺は階段から立ち上がると、階段から避けた。
あぁ…そうか。きっとこのアパートの住民だと思ったに違いない。
そこで俺は考えた。
「あぁ、いいんだよ。実はつい最近までこのアパートに住んでいてね。今日は休みだから懐かしくなって少し様子を見に来ただけなんだ。悪かったね」
出来るだけ怪しまれないように笑みを浮かべながら卓也に話しかけた。
「そうなんですか…」
「ところで君、こんな所に座ってどうしたんだい?このアパートの子かい?」
「は、はい…今日このアパートに越してきました…」
まだ俺に対して警戒心があるのか俯きかげんにしている。
「そうか。それじゃ1つ良いことを教えてあげるよ。このアパートはあまり日当たりが良くないから、押し入れはカビやすいんだ。だから除湿剤を入れておくことをすすめるよ。そうしないと布団があっという間にカビくさくなってしまうから」
「そうなんですか…?」
卓也が目を瞬いて俺を見た時…。
「あの…すみません…通して頂けますか…?」
ためらいがちに背後から声を掛けられた。
あ…!そ、その声は…っ!!
ゆっくり振り向くと、そこにはレジ袋を下げた彩花が立っていた。
彩花…っ!
心の内に沸き起こる強い感情を必死に抑え込むと謝った。
「す、すみません!階段を塞いでしまってっ!」
「い、いいえ…」
彩花は俺をを見た後、すぐに視線を卓也に向けて…目を見開いた―。