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第2章 31 偶然会った人

 辺りの空気が何となく変化した気がした。


しかもひんやりと冷たい空気が辺りを満たしている。


すぐに何処か理解した。

ここが…15年前の3月30日の世界であるということが。


「よし…まずはスマホの契約と…マンスリーマンションの契約だな…」


そこで神社を後にし、町へと足を向けた―。



****


「ありがとうございました」


不動産業者の声に見送られ、店を出た俺は賃貸契約したばかりのマンスリーマンションへと向った。


「やっぱりスマホの手続きもマンションの契約も2回めだと要領が分かっているからスムーズにいくな」


これからのことをあれこれ考えながら歩いていたが…住宅街にやってくると足を止めた。


「あ…あのトラックは…!」



偶然にも俺があのアパートに引っ越して来た直後に出くわしたのだ。


まさか…あの部屋には既に10歳だった俺がいるのか?そしてあの一番左端の部屋には彩花が…?!

それに今日は土曜日だ。

彩花の仕事が休みの日…。


暫くの間、引っ越しトラックの様子を眺めていた。

次々と業者に寄って降ろされていく荷物…。


あ、あれは俺が子供の頃に使っていた机だ。

そんなことを考えながら眺めてい時…。


「あの、すみません。通して頂けますか?」


不意に女性から声を掛けられた。

どうやら大きなトラックで道が塞がれている上、道路を塞ぐように立っていた為に通行の邪魔をしていたようだ。


「あ、失礼…」


言いかけて、声の主を見た途端息が止まりそうになった。

何と声を掛けてきたのは彩花だったのだ。


彩花…っ!


思わず感情が昂り、抱きしめてしまいそうになった。


「す、すみませんっ!」


動揺する気持ちを押さえて慌てて、後ろに下がった。


「いえ」


彩花は短く返事をすると、足早にその場を去っていった。


「彩花…」


小さくなっていく彼女の後ろ姿を見つめ、ポツリと呟く。


彩花、一体何処へ行くんだ…?

彼女の後をついていきたい気持ちをグッとコラえた。

そうだ、又同じことを繰り返して彼女を怯えさせるわけにはいかない。

俺は彩花のことをよく知っているけれども…彼女に取っては俺は見知らぬ男なのだから。


「大丈夫…今度は失敗しない。…彩花、必ず助けてやるからな…」


そして向かい側に建っているマンスリーマンションへと入っていった―。



****


 リュックを置くと、すぐに盗聴器を取り出した。


「本当は…あまりこんな真似はしたくないんだけどな…」


盗聴器を見つめながらため息をついた。


だが、今の俺には他に手段が思いつかなかったのだ。


まずは子供時代の俺に近づき、信頼させて親しくなる。そしてアパートに出入りできる関係を築くのだ。

そして何処かに盗聴器を仕掛け…奴が俺に暴力を振るいそうになったら、駆けつける。


それに盗聴器があれば…彩花と子供時代の俺が接触した場合、2人の会話を聞くことが出来るかも知れない。


そうしたら、偶然を装ってあのアパートを訪ねればいいんだ。


そうだ。

きっと今度こそうまくいくはずだ。


俺は盗聴器を強く握りしめた―。

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