第2章 23 返ってきた言葉は
何処をどう歩いて来たのかは覚えていない。
気づけば『時巡神社』の鳥居の前に立っていた。
「彩花…」
暗闇の林の中で愛しい彼女の名前をポツリと呟く。
あの後…。
彩花は抱き合った男とキスを交わし、その後2人は仲良さげに手を繋いで住宅街の中を歩き始めた。
一体何処へ行くのか…どうしても知りたくなった俺はそのまま2人の後をつけた。
2人は互いの指をしっかり絡ませながら手を繋ぎ、楽しげに会話しながら住宅街の中を歩いている彩花と見知らぬ男。
そんな2人の後ろ姿を見ているだけで、激しい嫉妬で胸を掻きむしりたくなる心境に陥っていた。
彩花…その男、何者なんだよ…?
本当に恋人なのか…?
やがて5分ほど2人は歩き続け…3階建てのマンションの中へと入っていった。
「そ、そんな…」
彩花が…男と2人きりでマンションの中へ消えていった。
ある程度予想はしていたけれども、やはりショックは大きかった。
もう、疑う余地は無かった。
この世界では俺と彩花には何の接点もなく…彼女には恋人がいたのだ。
「ハハハ…そもそも彩花に恋人がいないなんて思う方がどうかしていたんだな…」
乾いた笑いをしながら、涙が頬を伝っていることに気付いた。
「…っ」
なんて情けないんだ…。
彩花に恋人がいたことを知っただけで、涙がでてくるなんて…。
だが、子供時代の俺と接点が無いという事は彩花は奴に殺されることは無い。彼女にとっては…この世界は最適な場所なのだろう。
「彩花…幸せになれ…よ…」
俺は踵を返し…夜の住宅街を歩き続けた。
そして、気づけば『時巡神社』に戻ってきていたのだった―。
****
「…帰ろう。俺のもといた世界へ…」
ため息を付くと磁場発生装置を操作し、自分が元いた世界へ戻る座標をセットした。
途端に闇の世界に何処からともなく霧が発生する。
次の瞬間、足元が大きく揺らめくような感覚に襲われた俺は強く目を閉じた―。
「う…」
目を開けると、そこは明るい太陽に照らされた『時巡神社』の鳥居の前だった。
「ひょっとして…戻ってこれたのか?」
リュックからスマホを取り出し、今がいつなのかを確認した。
「元の世界に戻ってる…」
スマホの表示画面には俺が過去に戻る直前の時間に戻っていた。
「そうだ!すぐに教授に連絡を入れよう!」
この時間なら教授は講義がない。きっと電話に出ることが出来るはずだ。
急いでスマホをタップし…、教授に電話を掛けた。
トゥルルル…
トゥルルル…
『もしもし?上野、戻ってきたんだな?』
「はい!教授!あの、お願いがあります!ネットで…15年前の6月9日に彩花が殺害された事件が起きていないか調べてもらえますかっ?!」
『分かった!すぐに調べよう!それにしても上野。その様子だと今回はうまく…ん?』
電話越しの教授の様子がおかしい。
「もしもし?教授?どうしたのですか?」
すると、少しの沈黙の後…ため息混じりの教授の声が聞こえてきた。
『上野…そうか。今回も失敗してしまったのか…。だから戻ってきたんだな?』
「え…?」
悲しげな教授の言葉に俺は耳を疑った―。




