第2章 22 絶望の光景
気付けば俺はマンスリーマンションに戻ってきていた。
「どうすればいいんだ…?」
ベッドに座り、頭を抱えた。この世界での拓也は彩花と知り合いでは無かった。しかもあのアパートに住んでもいない。
けれど公園の前を通って行ったということはこの地区に住んでいるのは間違いないだろう。
だが…。
「どうやって探し出せって言うんだよ…?」
せめて彩花の勤めている会社が分かれば…いや、あのアパートに住んでいないという事は、職場だって違うかもしれない。
それどころか…。
「もしかして…この世界の彩花には恋人が…いる…?」
彩花が男と腕を組んで歩く姿を想像するだけで、頭がおかしくなりそうだった。
もし仮に、そんな現場を実際に目にしてしまったら嫉妬に狂って相手の男に何をしでかすか分からない…それくらいの強い気持ちが今自分の中に芽生えていた。
「馬鹿だよな…。俺は彩花と付き合った事すらないのに、こんなに嫉妬しているなんて…」
そこまで言いかけて、肝心なことに気付いた。
「待てよ…?ひょっとして、卓也と彩花が出会っていないなら…彩花は6月9日に奴に殺されることは無いってことなんじゃないか…?」
そうだ、何で今までそんな重要な事に気付かなかったんだ?だったらいつまでもこの世界にいる必要はないじゃないかっ!
「そうだな、一度…元の俺のいた時代に戻ってみよう。そしてネットで6月9日に殺人事件が無かったか調べればいいんだ!」
腕にはめた磁場発生装置のバッテリーを確認してみた。
「…充電しなくてもタイムトラベル出来そうだな…念の為に荷造りしている間だけでも充電をしておくか」
そこで腕時計を外して充電器に繋ぐとすぐに荷造りを始めた―。
****
22時半―
「…よし、荷造り完了」
マンスリーマンションはもう家賃は払い終えているし、鍵は申し訳ないが、郵便配送手続きをすることに決めていた。どのみち…元の時代に戻ったとして、彩花が何処に住んでいるか分からない今となってはこの世界にとどまるのは無意味のような気がしたからだ。
「…そうさ。きっと…この世界の彩花は卓也とは関係の無い世界で生きているのだから、殺されるような結末は無いだろう…」
そしてマンションを出て鍵をかけると、コンビニへ向かった―。
鍵の返送手続きを終えてコンビニを出た。
「…よし、それじゃ…神社へ向かうか」
ここから神社までは恐らく徒歩30分位はかかるだろう。
「こんな時間に神社に行く人間はそうそういないだろうな…」
苦笑しながら顔を上げた時、俺は衝撃的な光景を目にした。
何と、彩花が向かい側の歩道を急ぎ足で歩く姿が目に飛び込んできたのだ。
「え…?!彩花っ?!」
彩花だっ!彩花が今そこに…!
「あ…っ!」
名前を呼び掛けて、すぐに口を閉ざした。
そうだ、前回と同じ過ちを繰り返しては駄目だ。あの時は会えた喜びで感極まって抱きしめてしまったが為に、彼女に警戒されて彩花が死を迎えても…会えなかったじゃないか。
そうだ、落ち着くんだ…。
俺は深呼吸し、心を落ち着かせると彩花にばれないように後をつけた。
歩き始めて数分後のことだった。
彩花が突然何かに気付いたかのように手を大きく振ると、駆け出したのだ。
何だ?一体何があったんだ?
慌てて俺も後を追って…次の瞬間、絶望した。
彩花は誰とも知らぬ男の胸に飛び込み…2人は固く抱き合ったのだ。
「そ、そんな…」
一瞬で目の前が真っ暗になった気がした。
この世界の彩花には…恋人がいたのだ―。




