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第2章 20 耳を疑う言葉

 あのアパートから歩いて約5分…。


そこは住宅街の中に作られた然程大きくない公園だった。

滑り台に砂場、鉄棒にブランコ…遊具はたったそれだけだった。夕暮れに近い時間

ということもあり公園はガランとしており、数人の子供達が公園内でサッカーをして遊んでいるだけであった。


「いるかな…?」


すると、公園の片隅に置かれたブランコに乗っている子供の姿が目に止まった。

あれは…間違いない!子供時代の俺だっ!


そうだ。

親父の機嫌が悪い時…大抵アパートを出ていったのは奴の方だったけれども、時には俺が公園に逃げていたときもあった。…尤もそんなことをすれば、ますますアパートに帰りずらくなるだけだったのは分かりきっていたのだが、それでも奴が怖くて逃げていたのだ。その後部屋に戻れば、もっと酷い目に遭わされていたけれども…。



 

 少し離れた場所から公園の植え込みに隠れるように、少しの間子供時代の俺の様子をじっと見ていた。


キィ〜

キィ〜


つま先を地面に付いたまま、小さくブランコを漕いでいる俺。その姿は…我ながら見ていて哀れだった。着古したサイズの合わない服。履いているスニーカーも小さいのか、かかとを踏み潰している。


「俺は…あんな哀れな姿をしていたんだな…」


思わずポツリと呟き…どうやって話しかけようかと考えていた。

気づけばサッカーをしている子供達もいなくなり、公園にいるのは子供時代の俺だけだった。


さて…どうやって話しかけようか…?


あの頃の自分の心境を思い出して見る。


そうだ…。

1人で公園にいた俺は不安でたまらなかった。こっちへまだ越してきたばかりで学校では友達がいたものの、放課後一緒に遊ぶほどの中ではなかった。


誰かに気にかけてもらいたい…。ずっとそう思っていた。

そして、そんな俺に手を差し伸べてくれたのが彩花だったんだ…。


ひょっとするとあそこにいる俺は…彩花が公園の前を通りかかるのを待っているのかも知れない。

という事は、ここで子供時代の俺と話をしていれば彩花に帰るかも…?


「よし、一か八か…話しかけてみるか」


意を決して俺は子供時代の自分に近付いていった。


 

「そこの君、まだ家に帰らないのか?」


警戒されないように少し離れたところから呼びかけてみた。


「え?」


驚いたように顔をあげてこちらを見る俺。


「…っ!」


15年前の自分に再会し…一瞬息を飲んだ。

痩せた身体に目の大きさが際立つ容姿。着古して色あせたサイズの合わない小さな服…。

何て哀れな姿なんだ…。だが、これが15年前の俺の姿…。


「あの…?」


子供時代の俺が怪訝そうにこちらを見ている。まずい、怪しんでいるのだろう。


「いや、配達の帰りに偶然この公園の前を通りかかったんだけど、こんな時間に子供が1人で何をしてるのかと思ってね。


「…心配してくれる人なんて…誰もいないから…」


子供時代の俺がポツリと言う。


「…そうなのか?だけど、そんなこと言ったって家族が心配しているんじゃないのか?」


俺は何も事情を知らないふりをして尋ねる。


「でも誰か1人くらいは心配しているんじゃないのか?」


「いないよ、1人も」


子供時代の俺はまるで感情が欠落しているかのように見える。

だが…何故だ?

もう彩花と出会っているのに…。


何気なく公園の外に視線を移し…俺は大きく目を見開いた。


仕事帰りなのか、彩花が公園の前を横切っていく姿が目に入った。


彩花…!


思わず、目尻に涙が浮かびそうになる。


「どうかしたの?」


子供時代の卓也が俺に声を掛け、同じ方向を見た。当然卓也の目にも彩花の姿が目に映ったのだろう。


そして、次に耳を疑うような言葉を卓也が口にした。


「誰?あのお姉さん…。知り合いなの?」


「え…?」


俺はその言葉に血の気が引いた―。



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