第2章 19 憎い相手
親父…っ!
目の前に立つ男は少年時代の俺を虐待し…挙句の果てに大切な女性、彩花の命を奪った憎い男だった。
その顔を一目見た途端、一瞬で全身の血が沸騰してしまうのではないだろうかと思う程の激しい怒りの感情が駆け巡った。
思わず歯を食いしばり…怒りに身を任せようとした次の瞬間―。
「どちら様ですか?」
ジロリと睨みつけるかのように奴は俺に尋ねてきた。そこで気持ちが落ち着く。
そうだ、今ここで騒ぎを起こせばまた歴史が変わってしまうかもしれない。
なるべく大きな歴史の改変はしてはいけないのだ。
「あの、こちら吉田さんのお宅でしょうか?お届け物なのですが」
溢れ出そうになる怒りをおさえながら、笑みを浮かべて親父に尋ねた。
「はぁ?お前…何言ってるんだ?この表札が読めないのかよ!」
奴は扉を叩くと怒鳴りつけてきた。扉の表札には『上野』と書かれている。
「あ…申し訳ございません。上野さんでしたか…。どうやら住所が違っていたようですね。これは失礼致しました」
頭を下げると、奴は俺を睨みつけてきた。
「ばっかやろう!」
バンッ!
そして目の前で思い切り扉を閉められてしまった。
「…チッ」
小さく舌打ちすると、むしゃくしゃする気持ちを抱えながらアパートの外階段を下りて行った。
「クッソ…。アイツ…また酔っぱらっていやがった。あの様子じゃ昼間から飲んでいたに違いない…。ろくに働きもせずに、稼いだ金は殆ど酒につぎ込みやがって…!」
再び奴に対する激しい怒りがこみあげてきた。
「…クソッ!」
今一度、あの部屋を振り返って睨みつけると、一旦気落ちを落ち着かせる為にマンションに戻ることにした―。
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「それにしても…まさか奴が部屋にいるとは思わなかったな…。この頃の奴は確か、夕方から夜勤の仕事に行っていたはずなのに…」
マンションに戻った俺はコーヒーを飲みながらブツブツと呟いていた。
まさか俺が過去にやってきたことによって、再び歴史の改変が行われてしまったのだろか?
奴が部屋にいたことは仕方の無いことだとして…だったら、少年時代の俺は一体何処へ行ったんだ?
もう一度、少年時代だった俺の記憶を思い出してみる。
「そうだ…。思い出したぞ…。行く当てが無かった時の俺は…アパートの近くにある近所の公園で時間を潰していたんだ…」
よし、なら近所の公園に行ってみるか。
そう言えば…あの頃の俺はいつもひもじい思いをしていた。
「何か食べ物をやれば…俺に心を許すかもしれないな」
尤もあの頃の俺は警戒心が強い子供だった。例え、どんなに腹が減っていても見知らぬ相手から食べ物を貰うことも、気を許して俺と親しくなれるかどうかも分からない。
「まぁ、仕方ない。とりあえず公園に行くだけ行ってみるか…」
もし公園にもいなかったら、その時はまた別のプランを考えよう。
そして俺は公園へと足と向けた―。




