第2章 7 タイムトラベルの原理とは
「着いたよ」
宮田教授が声を掛けてきて、我に返った。
「あ…着いたんですね」
気づけば車は『時巡神社』の前に停車していた。
「ああ。…所で何か考え事でもしていたのか?ずっと神妙な顔をして黙り込んでいたからな」
シートベルトを外しながら宮田教授が尋ねてくる。
「はい。初めてこの神社に来た時の事を思い出していました」
俺も宮田教授にならってシートベルトを外した。
「そうか、では降りようか」
「はい」
そして俺と宮田教授は車を降りると、林の前に立った。
「ふむ…やはりな…」
宮田教授は林の中を覗き込んだ。
「どうかしましたか?」
「いや、今は霧が発生していないと思ってな」
「やっぱり…この神社の謎をご存知だったのですね」
「ああ、勿論だ。では中へ入ろうか?」
「はい」
教授に促され、俺たち神社を目指すべく林の中へと足を踏み入れた。
「君は『神隠し』の話を聞いたことがあるかね?」
歩きながら宮田教授が尋ねてきた。
「はい、勿論です。ある日、忽然と人が消えてしまう話ですよね?稀に意外な場所で発見されたり、何年も後で発見されたり…」
「…私はその『神隠し』にあった人々は時間を超えていると考えているんだ。いわゆる『タイムトラベラー』というやつかな?」
「『タイムトラベラー』ですか…」
すると目の前に赤い鳥居が見えてきた。何だか辺りの空気が変わってきた気がする。
「恐らく彼等は無意識のうちに時を超えているのだろう。例えばこのような神秘的な場所でな」
「!」
驚いて宮田教授を見た。
「よし、鳥居を潜ろうじゃないか?」
教授の声はどこか楽しげに聞こえた。
「はい…」
ゴクリと息を呑むと教授が笑った。
「アハハハ…何もそんなに緊張することはない。この鳥居はスイッチのような物だと考えているんだ」
「スイッチ…ですか?」
「そう、スイッチだ。この鳥居をくぐることによってタイムトラベルへの入り口を開く為のスイッチが入る。そして神社の前で君は戻りたい時を願い…また鳥居をくぐった時にその時代へタイムトラベル出来る…。私はそう考えている。ただし…それには条件があるんだ」
「え…条件ですか…?」
「そう、実は不思議なことにこの神社一帯は強力な磁場が発生しているんだ」
宮田教授は肩から下げていて皮の鞄から手のひらサイズの機械を取り出した。
「教授、それは何ですか?」
「これはハンディタイプのガウスメーター…磁気測定器だよ。この針がS極かN極に大きく振れることで過去に戻れるか、未来にいけるかが関係してくる」
「…」
俺は黙って宮田教授の話を聞いていた。
「そして磁場が発生すると、この辺り一帯は濃い霧に満たされるんだ」
「…教授は何故そんなに詳しいのですか?」
不思議に思って尋ねてみた。
「私はね、若い頃からパワースポットに非常に興味があって全国各地を巡っていたんだよ。そこで偶然この神社の存在を知ってね…ずっと研究しているんだよ。恐らくこの磁場を自由自在に操ることが出来れば、ピンポイントで行きたい時代へ行くことが出来るはずだ」
「そ、その話…本当ですか?!」
もしそんなことが本当に可能なら…彩花を助けることが出来るはずだ!
「ああ、可能なはずだ。だがその為には助手がいる。上野君。君…将来私の弟子にならないか?2人で一緒にタイムトラベルの研究をしようじゃないか?」
「は、はい!是非お願いします!」
「よし、なら…まずは大学を受験して合格することだ。勿論理系を専攻するんだぞ?無事に大学入学を果たし…卒業した暁には私の研究所でアシスタントとして働いて貰おう」
「はい!分かりました!」
こうして俺は大学入学を果たす為、本格的に受験勉強を初め…理数系の大学に入学することが出来た。
ここから俺と宮田教授のタイムトラベルの研究が本格的に始まったのだった―。