第2章 2 宮田教授
あの事件から12年たった今も俺は同じ町に住んでいた。何故なら彩花と過ごしたこの町が…あの幸せだった日々が忘れられなかったからだ。
「あ…とうとうこの場所…駐車場になってしまったのか…」
自転車に乗り、駅へ向かう道すがら…かつて彩花と俺が住んでいたあのボロアパートだった場所にやってきた。
あのアパートは10年ほど前から誰も入居者がいなくなり、そのまま暫く放置されていた。
しかし2年ほど前に取り壊されて、少しの間空き地になっていたのだが最近になって工事が始まり、出来上がったのが今俺が見ている駐車場だった。
「駐車場になってしまったなら…もう恐らくこの場所が変わることは無いだろうな…」
ポツリと呟くと、俺は駅へと急いだ―。
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俺は某私立大学の物理学を教えている教授の秘書として働いていた。
「おはようございます、教授」
午前8時45分―
いつものように教授の研究室のドアを開けると、その部屋は相変わらず酷い有様だった。机にもソファの上にも大量の本や資料が山積みになり、足の踏み場もない。
しかも俺の机の上まで物が占領されている。
全く…なんてことだ…。
昨日、半日かけて部屋を片付けたのに…たった半日でまた元の状態に戻されてしまうとは…!
そして肝心の教授の姿が見えない。
「教授…いらっしゃるんですよね?宮田教授っ!」
すると…机の奥に隠れたように置かれている長椅子から宮田教授が起き上がった。
「ああ、おはよう。上野」
教授は目をゴシゴシこすりながら笑顔で俺を見た。ぼさぼさ頭でこちらを見る宮田教授は御年65歳の物理学の教授である。
「何がおはようですか?またこの部屋に泊ったんですね?これだからうちは他の教授たちから目の敵にされているんですよ。大学の研究室を勝手に私物化してるって」
「まぁ、そう言うなって…」
教授はあくびを噛み殺しながら俺を見た。
「ようやく私の理論が成立して、次元を超える方法が完成したんだからな?」
「え…?そ、その話…本当ですか…っ?!」
俺はその言葉に固まった―。
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俺と教授の出会いは今から7年前のことだった。
当時、俺は高校3年になったばかりで、大学進学か就職するかのどちらかで悩んでいた。世話になっていた児童相談所の所長からは『君は極めて優秀だから、奨学金を借
りてでも大学に進学するべきだ』と言われていた。
俺も出来れば大学へ進学したかった。
何故ならどうしても叶えたい願望があったからだ。人に話せば、それこそ笑い飛ばされてしまうような、まるで夢物語の世界の話だと言われても当然の願望が…。
それは、過去に戻ること。
俺はどうしても過去に戻って…彩花の死を防ぎたかった。
そして、過去に戻る為のある糸口を俺はすでに知っていたからだった。
だから、どうしても諦められなかったのだ。大学へ進学し、時を戻る方法を研究して実現させたかった。
過去に戻って彩花を助け…俺たちの運命を変えると言う願いを。
そんな時、俺は…宮田教授と出会った―。




