第1章 55 2人で映画
その後、また再び拓也さんとの連絡は途絶えてしまった。念の為にスマホに連絡を入れてみても、やはり繋がることは一切無かった。
拓也さん…会いたいよ。
どうして連絡が取れないの?
『彩花、また…絶対会いに来るから…それまで待っていてくれるか?』
頭の中で拓也さんの言葉が蘇ってくる。
そうだ、拓也さんは約束してくれた。絶対に私に会いに来るって。だから…私はその言葉を信じて待つしか無いんだ―。
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「どうしたの?お姉ちゃん。何だか元気がないように見えるけど?」
不意にたっくんに話しかけられて我に返った。
「あ、そ、そう?ごめんね」
いけない、今日は私はたっくんと一緒に映画を観に出掛けていたのに拓也さんの事を考えていた。
「大丈夫?何かあったの?」
「ううん、何も無いよ。そうだな〜強いて言えば、最近会社で仕事の量が増えたかな〜って感じ?」
するとたっくんの顔が曇った。
「え?そうだったの?…ごめんなさい。疲れているのに僕を遊びに連れてきてくれて…」
しゅんとした様子でたっくんが言う。いけない、私はまだ10歳のたっくんに気を使わせてしまった。
「何言ってるの〜。たっくんと会うと元気になれるんだからそんな事言わないでよ。それじゃ早く映画館に行こう?」
「うん!」
たっくんの手を握りしめると、2人で早足で映画館に向かった―。
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「あ〜面白かった。僕、映画館で映画観るの…初めてだったんだ…」
ファーストフード店でチーズバーガーを食べているたっくんが嬉しそうに言った。
「え?そうだったの?」
私達が観た映画は今話題になっている最新のSFXを駆使した冒険ファンタジー映画だった。そして今は2人でファーストフード店で少し遅めにのランチを食べている最中だった。
「ありがとう、お姉ちゃん。あんなに大きなスクリーンで観る映画って本当に迫力があるね」
生まれてはじめての映画館にたっくんはすっかり興奮している様子だった。
「本当?それじゃまた何かたっくんが観たい映画あったら一緒に行こう?」
「え?!いいの?!」
目を見開くたっくん。
「うん、勿論だよ。だって私はたっくんとお出かけするの好きだもん」
「僕もお姉ちゃんが大好きだよ」
無邪気な笑顔で笑いかけるたっくんを見ていると元気になってくる。
「そうだね。それじゃまた次回面白そうな映画がないか調べてみるね」
「今度はお兄ちゃんも一緒だったらいいのにな〜」
たっくんの言葉に思わず反応しそうになってしまった。けれど動揺を見せるわけにはいかない。
「うん…。そうだね。でも今は何だか忙しいみたいだよ?でもそのうち、必ずまた来るって言ってたから…待っていよう?」
私は自分に言い聞かせるように言った。
「うん、そうだね」
そして再びハンバーガーにかぶりつくたっくん。
私はそんなたっくんを見つめながらホットコーヒーを飲んだ。
拓也さんとあの日別れて…もうすぐ5月が終わろうとしている―。




