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第1章 50 スパでの会話

 拓也さんと別れた後、私は様々なお風呂を堪能した。

ジェットバスや露天風呂、薬草湯や岩盤浴…。


「は〜…生き返る…」


生まれてはじめてのスパは私に取って至福の時をもたらしてくれた。

フフ…拓也さんに感謝しないと。私1人じゃ、こんな場所に来れなかったもの。


「たっくんも連れてきてあげたらな〜…」


児童相談所に預けられているたっくんに私は思いを馳せた―。



****


22時15分―


待ち合わせ場所に行ってみると、既に拓也さんが待っていた。拓也さんは藍色の作務衣を着て立っていた。


「拓也さん!」


駆け寄ると、拓也さんが笑顔で振り向いた。


「彩花」


「ご、ごめんね。待ったかな?」


「全然待ってないさ。俺も今来たところだから」


そして私をじっと見つめてくる。


「な、何?」


「うん、その作務衣すごくよく似合ってる。可愛いよ」


言いながら私の頭を撫でてきた。


「た、拓也さん…」


思わず顔が真っ赤になる。まただ…これではまるで本物の恋人同士みたいだ。


「よし、行こうか」


拓也さんは私の左手を握りしめると歩き出した―。




****



 私と拓也さんは今、『御食事処』にやってきていた。


「彩花。ビールでも飲まないか?それとも他に何か飲みたいものがあれば好きなのを選ぶといいよ」


テーブル席で向かい側に座った拓也さんがメニュー表を差し出してきた。


「え…?でもいいの…?」


「何が?」


「だって…車で来ているのに…拓也さんはお酒飲めないでしょう?」


「彩花…忘れたのか?今夜、俺たちはこの施設で宿泊するってこと」


「あ、そ、そうだったね!もうお風呂に入っただけで満足しちゃって…そうだった。ここは休憩室があるって館内施設にも書いてあったものね。浮かれてて肝心な事忘れてた」


と言うことは今夜拓也さんと一緒にここで過ごせるんだ…。

そう考えると嬉しくてどうしても口元がほころんでしまう。


「どうしたんだ?そんなにメニュー表見て笑って…何か美味そうなメニューでも見つかったのか?」



拓也さんが覗き込んできた。


「あ、う、うん!そうだね。ほ、ほら。やっぱりお酒飲むなら鶏の唐揚げは外せないんじゃないかな?」


「そうだな。唐揚げは絶対だよな?後は…俺は揚げ出し豆腐がいいな」


「私、枝豆も食べたいな〜」


その後、私達は2人で一緒にビールを飲みながら料理を食べている時…やはりふと、たっくんの事が頭に浮かんだ。たっくんをここに連れてきてあげたい。


そうだ、来月の誕生に3人でここに来てお祝いなんてどうだろう?

それはとても素晴らしい考えに思えた。


早速拓也さんに尋ねてみよう。



「ねぇ、拓也さん」


ジョッキでビールを飲む拓也さんに声を掛けた。


「ん?どうした?」


「あ、あの…さ、こ、今度また…ここに来ない?」


「そうか。そんなに彩花はここが気に入ったのか?」


笑みを浮かべながら拓也さんが私を見つめてくる。


「うん…たっくんも連れてきてあげたいんだ…。それで考えたんだけど…たっくんの誕生日はここで3人でお祝いしたいな〜…何て思ったんだよね…」


そしてちらりと拓也さんを見て、私は息を飲んだ。


何故なら彼は…真っ青な顔で私を見つめていたから―。

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