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第1章 49 まるで恋人同士のように

 館内に入ると、板張りの大きなホールが広がっていた。入り口のすぐ正面は受付カウンターとなっており、多くの人で賑わっている。見た所、家族連れやカップル…お年寄りの団体…来店客は千差万別だった。


「やっぱり土曜の夜だから混んでいるな」


拓也さんの言葉に尋ねた。


「ねぇ?拓也さんは前にもこのスパに来たことがあるの?」


「ああ、4〜5回はあるかな?」


「ふ〜ん、そうだったんだ。なら詳しいね」


「ん?ああ。そうだな。それじゃフロントに行くか」


「うん」


そして私達はフロントへ向かった。



「いらっしゃいませ」


葡萄茶色えびちゃいろの作務衣姿の女性スタッフがにこやかに挨拶をしてきた。


「大人2枚お願いします」


拓也さんが5千円札をカウンターに置いたので、私も慌ててお財布を出そうとすると止められた。


「俺が出すよ」


「あ、ありがとう」


拓也さんは少しだけ口元に笑みを浮かべると、スタッフからチケットとロッカーの鍵を受け取り私に声を掛けた。


「行こう、彩花」


「うん」




混雑する館内を2人で進むと、左右に分かれた大きな棚が置かれた場所にやってきた。


「右側が女性用の作務衣とバスタオルにアメニティセットが一式セットになっているんだ。ここから自分のサイズを選ぶといい。俺も向こう側で選んでくるから」


「うん、ありがとう」


返事をすると拓也さんはうなずき、男性用の浴衣を取りに行った。その姿を見届けると私はすぐに作務衣のデザインや柄を選ぶことにした。



「うん、これがいいかな?」


私が選んだ作務衣は藤色に細かい花模様がプリントされた可愛らしいデザインのMサイズの作務衣だった。

アメニティセットの中には持ち運べるように不織布のエコバッグがついていたので、そこにバスタオルやら作務衣などを入れていると、背後から拓也さんが声を掛けてきた。


「彩花、選んだのか?」


「うん、選んだよ」


荷物をエコバッグに全て入れて頷く。


「それじゃ、上の階に行くか。2階が温泉施設になってるんだ」


「そうだね、行こう?」


そして私は拓也さんに連れられて、2階へ向かった。




****



 2階に行くと、そこはさらに大勢のお客で混雑していた。温泉の入り口は右側が女湯で左側が男湯になっている。


入り口の前は広々としたスペースが取られており、ソファや自販機、マッサージチェアも置かれている。


「彩花、ここで待ち合わせしないか?時間は…そうだな。今は19時40分だから22時

15分位はどうだ?ほら、飯も食わないといけないし?」


「うん、そうだね」


「よし、それじゃ又な」


拓也さんは笑みを浮かべて私の頭を撫でると、男湯へと入っていった。


「!」


思わず、その行動に顔が赤面する。


な、何?今の…。まるで本物の恋人同士みたいに…。


私の胸の鼓動は暫くの間、高鳴ったままだった―。


 

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