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第1章 46 2人で迎えた朝

 翌朝―


「う~ん…」


朝日が顔に差し込み、まぶしさのあまり目をゆっくり開けてみて…驚いた。何と拓也さんがベッドの中で私の顔をじっと見つめていたからだ。


「おはよう。彩花」


そしてにっこりとほほ笑む。


「あ…お、おはよう…ま、まさか…私の寝顔、見てたの…?」


恐る恐る尋ねると拓也さんは頷く。


「勿論。俺の方からおはようって言いたかったからね」


「…!」


寝顔を見られていたという事実が恥ずかしくて、思わず拓也さんに背を向けると背後から声を掛けられた。


「…彩花。どうしたんだ?」


「だ、だって…寝顔見られていたなんて…は、恥ずかしいんだもの…」


すると背後から拓也さんが私を抱きしめてくると耳元でささやくように言った。


「今更恥ずかしがる関係じゃないだろう?」


「…」


言われて見れば確かにそうかもしれない。


「う、うん…」


顔を赤らめながら拓也さんの方を見ると、すぐにキスされた。


「好きだよ、彩花」


その言葉がじんわりと胸に染み入ってくる。


「うん、私も…拓也さんの事が好き」


そして私たちはもう一度、甘いキスを交わした―。




****


「ごめんね…お給料前で大した食事、用意出来なくて…」


テーブルの上にご飯、味付け海苔、若芽と油揚げのお味噌汁、ほうれん草の胡麻和えに納豆を置くと拓也さんをチラリと見た。


「何言ってるんだよ。彩花が俺の為に朝ご飯を用意してくれるだけでごちそうだよ。ありがとう、とっても美味そうだ」


拓也さんは優しい笑みを浮かべながら私に言う。


「ほ、本当?そう言ってもらえるなんて…嬉しいな」


「よし、それじゃ食べるか?」


「うん」


「「頂きます」」


そして質素だけど、幸せな時間が始まった―。



「ねぇ、拓也さん。そろそろ…何があったのか説明してくれるんでしょう?」


ほうれん草の胡麻和えを食べながら尋ねた。


「ああ、そうだよな」


お味噌汁を飲んでいた拓也さんはお椀を置いた。


「実は、隣のアパートの鍵を卓也の父親の面会に行って預かってきたんだよ」


「え?そうだったの?!でも…良く借りられたね?」


「それは…ちょっと興信所のつてがあってな。でも…悪いけど、どういうつてがあるかは…言えないんだ。ごめん」


拓也さんは私に頭を下げてきた。


「え?いやだ。謝らないで?それで…隣の部屋で何をしていたの?」


「実はあの部屋は解約することになったんだよ。その手続きを俺が代理ですることになったんだ」


その言葉に驚いた。


「え?そうなの?それじゃ…たっくんはもう二度とあの部屋には戻れないって事…?」


「仕方ない。どのみち出所しても…もう卓也はあの男とは一緒に暮らすことはないからな。もともとあの部屋は…あの男が借りた部屋なんだ。それに今は拘置所にいる。借りたままだと家賃だって発生するからな。それで俺が代役で解約手続きをすることになったんだ」


「そうだったんだ…。ところで、拓也さん。今まで…」


そこで私は言葉を切った。


「どうかしたのか?彩花?」


お茶碗を持った拓也さんが不思議そうに私を見た。


「…ううん、何でもない…。それじゃ、朝ご飯食べたら私も隣の部屋の片付け手伝うよ」


「本当か?それは助かるな。何しろ昨夜は予定が狂ってしまったからな?」


拓也さんは意味深な笑みを浮かべ、私は思わずその言葉の意味を知って赤くなった。


「や、やだ…もう。変な事言わないで」


「ハハハハ。やっぱり彩花は可愛いな」


無邪気に笑う拓也さんを前に私はどうしても尋ねることが出来なかった。連絡が取れなかった間、今までどこで何をしていたのかを。

そのことを尋ねれば…拓也さんが再び私の前から去ってしまうような気がしたから。


でも、拓也さん。


いつか本当の事…教えてくれるよね―?



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