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第1章 45 言葉はいらない

 それはGWが終わって数日後の金曜日の夜の出来事だった―。


この日は連休明けで珍しく残業になってしまい、会社を出たのは19時を回っていた。



19時45分―



「ふ~…今日は疲れたわ…」


私はアパートに帰ってきた。


カンカンカン…


アパートの外階段を上り、2階にやってきた時…私はぴたりと足を止めた。


「え…?嘘でしょう…?」


驚きのあまり、目を見開いてしまった。何故ならたっくんが住むアパートの部屋から明かりがついているのが見えたからだ。


まさか、たっくんの父親が出所してきた…?

そう思うと私の身体に恐怖が走る。


早く…自分の部屋に戻らないと。


なるべく足音を立てないようにたっくんのアパートの前を通り過ぎ、鍵を取り出すとカチリと開けて音をたてないようにドアノブを回した。


キィ~…


築35年のアパートの扉が軋む音が思いがけずに大きな音を立てる。


だ、大丈夫…。きっとお隣には…聞こえていないはず…。

急いで部屋の中へ入り、そっと扉を閉めるとカチリと鍵をかける。隣に私がいる気配を探られたくなくて電気もつけられない。


「ふぅ~…」


暗い部屋の中…玄関に上がりこむと、緊張がほどけてズルズルと床の上に座り込んでしまった。


「ど、どういうことなの…?まさかこんなに早く出所してしまったの…?」


そして私は思った。


もし、父親が戻ってきたらたっくんはどうなるのだろう…と。


その時…。


ピンポーン


いきなり私の部屋のインターホンが鳴り響き、心臓が飛び跳ねそうになった。


「ど、どうしよう…まさか、ばれてしまったの…?」


怖くて身体の震えが止まらない。


ピンポーン


更にインターホンが鳴らされる。


い、いや…怖い…。


すると…。


「彩花?いないのか…?」


扉の外で声が聞こえた。その声は…拓也さんだった!


「!」


考えるより、先に身体が動いていた。


ドアノブに飛びつくと、鍵を開けてガチャリと大きく開け放った。すると、そこには驚いた顔を見せる拓也さんが立っていた。


「驚いたな…いきなり扉が開かれるから…って、彩花?!どうしたんだっ?!」


拓也さんが驚いた顔で私を見る。


「た、拓也…さん…」


たった今まで怯えていた恐怖や、ずっと会いたくてたまらなかった拓也さんに会えた喜び…様々な感情が入り乱れ…気づけば私は泣いていた。


「拓也さん…わ、私…」


涙交じりに拓也さんの名を呼んだ。


「彩花…っ!」


拓也さんの顔が一瞬切なげに歪み…次の瞬間、拓也さんは私を強く抱きしめてキスをしてきた。


甘い…キスを…。


拓也さんは無言で私をベッドに運ぶと、そのまま上に覆いかぶさってくる。


ここから先は…もう2人の間に言葉は必要なかった。



この夜、私と拓也さんは、2人きりの甘い時間に溺れた―。


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