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第1章 30 彼の涙

 今、私は拓也さんと自室でテーブルを挟んで向き合って座っていた。


「どうだ?少し…落ち着いたか?」


拓也さんが静かに尋ねてくる。


「う、うん…」


小さく頷く。


「彩花…ひょっとして、警察に…通報したのか…?」


何故か拓也さんの顔は青ざめている。


「うん。通報したけど…?」


すると…。


「な、何でだよ…何で、通報なんかしてしまったんだ…?これじゃ…前と同じだ…。何も…何も変わっていない…!」


拓也さんは顔を押さえて苦し気に呻いている。けれど私には彼の反応が全く理解出来なかった。何も変わっていないと言う言葉の意味も分からないし、それだけじゃない…。どうしてそんな突き放した言い方をするのかが不思議でならなかった。だから、気付けば私は彼を詰っていた。


「どうしてよっ!小さな子供が父親から激しい暴力を受けているんだよ?!誰が助けてくれるのよっ!近所の人達は皆知っているのに見て見ぬふりをしている。あの子は…たっくんはまだ大人の保護が必要な子供なんだよ?!」


酷いっ!

拓也さんなら…分ってくれると思っていたのに…。すると拓也さんはとんでも無い事を言って来た。


「…そんな事して…逆恨みされたらどうするんだよ…?もし、彩花が通報したことを卓也の父親に知られたら…ただでは済まないかもしれないだろう…?くそっ…!こんな事なら…もっとあいつを痛めつけておけばよかった…」


拓也さんが何を言っているのか分からなかった。けれど、これだけは言える。


「別に構わないよっ!逆恨みされたって…たっくんを救えるなら!」


「彩花っ!俺の話を聞いてくれ!いいか…?あの男は普通じゃない。相手が例え子供であろうと、女性であろうと、あいつにとっては関係ないんだよ。気に入らなければどんな手段を使ってでも仕返しをしてくる…そんな危険な人物なんだ!」


「だからと言って、たっくんを見捨てる事なんて…私には出来ないよっ!」


「彩花っ!」



次の瞬間―。


拓也さんに腕を引かれ、気付けば抱きしめられていた。拓也さんは私の髪に顔をうずめながら言った。


「何でだよ…彩花…何で…そこまでして卓也に構うんだよ…?彩花にとっては…所詮は…ただの…他人じゃないか…」


所詮はただの他人…。


「あのねぇ…!」


拓也さんの言葉に私は一瞬、怒りを感じたその時、彼が泣いている事に気付いた。


「彩花…俺は…俺はまた失敗してしまったのか…?何所がいけなかったんだ…?また俺は君を…失ってしまうのか…?」


え…?

失敗…?また失う…?一体どういう事なの…?

それに、何故拓也さんはそこまで私を?


「た、拓也さん…?」


すると、突然拓也さんが驚いた様に私から離れると謝罪してきた。


「ご、ごめん…。いきなり抱きしめたりして…驚いただろう?」


「それは確かに驚いたけど…」


でも、それ以上に驚いているのは…。


「ねぇ、拓也さん…。今言った事って…」


すると―。


「ごめん」


いきなり拓也さんが頭を下げて来た。


「え?な、何で謝るの?私、まだ何も言ってないよ?」


「言わなくても分ってる…彩花が何を言いたいのか。だけど…本当にごめん。今はまだ何も話せないんだ…」


「今はまだ何もって…それじゃ、いずれは話してくれるって事なの?」


じっと拓也さんの目を見て尋ねた。


「ああ、いずれ…全て話すよ。だけど、今は…何も言えないんだ…」


拓也さんは目を伏せたまま、私を見ようとしない。


「そうなの…?それじゃ、昨日拓也さんを見かけたことも話してくれないの…?」


「…」


拓也さんは答えない。


「昨夜、たっくんのお父さん…アパートに帰って来なかったんだよ?さっき、もっとあいつを痛めつけておけばよかったって言ったよね?それも私は聞いたらいけないの?」


すると、拓也さんは顔を上げた。


「それは…話すよ…」


そして、彼は昨夜の事を話し始めた―。


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