第1章 25 見えない怪我
「たっくんっ!」
アパートの外階段を駆け上がり、ドアが開け放たれたままの部屋に飛び込んで息を飲んだ。何とたっくんは畳の部屋で仰向けに倒れていたからだ。
「たっくん!!」
慌てて靴を脱いで部屋の中に上がり込むと、たっくんの元へ駆け寄った。外見上では怪我を負っているようには見えなかった、
「たっくん!しっかりして!」
身体を抱えて抱き起した時…。
「うっ…!」
たっくんが小さく呻いた。
「え…?」
慌ててたっくんをそっと床に降ろし、私は声を掛けた。
「たっくん…ごめんね…ちょっと見せて貰うね?」
そして私は静かにたっくんの服の袖をまくってみた。
「!」
そこには煙草を押し付けられたような火傷が出来ている。
まさか…?他の場所にも…?!
私はたっくんの身体の傷を改めさせて貰った。その結果、たっくんは服で隠れていたありとあらゆる部分に怪我を負わされてたことが分った。
「な、何て酷い事をするの…!すぐ病院に連れて行ってあげるからっ!」
すると、たっくんが弱弱しい声で私に訴えて来た。
「お、お願い…病院には連れて行かないで…。もし行ったらまたお父さんに怒られるから…」
「だ、だけどっ!」
「お姉ちゃん…お願いだから…」
泣きそうな顔で懇願するたっくん。
私は…とうとう病院へ連れて行くのは諦めることにした。
「でも、その代わり…手当はさせてもらうからね?今、薬箱持ってくるから待ってて」
「う、うん…」
たっくんは横たわったまま返事をする。私は急いで自分の部屋へ戻ると押し入れにしまっておいた救急箱を取り出した―。
****
「はい、一応素人だけど怪我の手当て…終わったよ」
薬や包帯を救急箱にしまいながらたっくんに声を掛けた。
「うん。有難う…お姉ちゃん。でもすごいね…怪我の手当てすごく上手なんだもん」
「う、うん。そ、そうかもね…」
私が怪我の手当てが上手なのは…それは子供の頃に母と母の連れて来た男の人達に暴力を振るわれて育ち、自分で手当てをしてきたからだ。
だけど…私はたっくんにはそんな目に遭って欲しくない…。
救急箱を胸に抱きしめた時、拓也さんの事を思い出した。
「ねぇ、たっくん。そう言えば拓也さんには会った?」
「ううん。お兄ちゃんには今日は会ってないよ?」
「そう…なんだ…」
それじゃ、私の見間違いだったのかも…。
「たっくん、夜ご飯食べた?」
部屋の壁掛け時計を見ると、時刻は既に20時を過ぎている。
「ううん…まだ…」
「そっか…お姉ちゃんもまだなんだ。今夜は寒いし…野菜たっぷりの雑炊作って食べようかと思っていたんだけど、一緒に食べない?」
「本当…?いいの…?」
「うん、いいよ。おいで、たっくん」
「うん」
そして私はたっくんを自分の部屋に連れ帰った―。




