第1章 24 不穏な明かり
翌日―
出勤する為にアパートを出た時に、丁度外階段を降りていく人影を見た。
「え…?あれは…?」
急いで鍵を掛けて、アパートの通路用手すりにつかまって下を覗いてみた。すると、道路に向かって歩いてく、たっくんとたっくんの父親の後ろ姿が見えた。
たっくんの父親はスーツ姿だった。
「へ〜…あんな格好するんだ…」
思わずポツリと呟く。何しろ私の知るたっくんの父親はいつも上下のスウェット姿だった。まさかスーツを持っていたなんて…。
「あ、いけない!遅刻しちゃう!」
私は慌てて外階段を降りて行った―。
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「ふ〜…疲れた…」
今日も午前9時から午後6時まできっちり働き、私は電車に揺られていた。
夜ご飯は何にしようかな…たっくんに昨日進級祝のプレゼントを買ったから、今週は少し節約しないと…。
そして最寄りの駅に到着するまでの間に、私は今夜のメニューを思いついた。
「…よし、こんな物かな…?」
スーパーで買い物かごの中身をチェックすると、私はレジへ向かった。
「うう…重いわ…いくら特売日でも買いすぎてしまったかしら?でも冷凍保存していれば日持ちもするものね…」
今にもレジ袋の重みで破れてしまいそうな荷物を両手に抱えて自動ドアを通り抜けて外に出た時の事だった。
「え…?あれは…?」
目の前の歩道を駅の方へ向かって歩いている人は拓也さんだった。
「え?拓也さん?」
けれど私からは距離が離れすぎているからなのか、彼は私に気づくこと無く早足であるき去っていく。そして、その横顔は…いつになく真剣な表情だった。
「拓也さん…?」
結局彼はそのまま人混みに紛れて姿が見えなくなってしまった…。
「…何だったの…?今のは…?」
こっちに来ていたなら連絡くらい入れてくれても良かったのに…。
「まぁ…別にいいけどね」
そして私は両手に荷物を抱えて自転車置き場へと向かった―。
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「え…?」
自転車に乗ってアパートが見えてきた時…私は異変に気がついた。
2階の部屋…たっくんが暮らしているアパートのドアが開け放たれ、明るい光が見えている。
「何?扉が開いているの?」
その光景を目にした私は…スーパーを出た時の光景を思い出した。あの時…真剣な顔で駅の方へ向かって歩いていく拓也さん…。
何だろう…?すごく嫌な予感がする…!
急いで駐輪場置き場に自転車を止め、カゴから買ってきた品物を取り出した。
たっくん…!
重いレジ袋を両手に抱きかかえ、私はアパートの外階段を駆け上がった―。




