終章 3 必ず守るから <完>
「そ、そんな……」
俺の話を全て聞いた彩花は目を見開いてじっとこちらを見ている。
「それじゃ、貴方はたっくんだったの?」
「ああ、そうだ。俺は上野卓也だ。驚いたか?」
そっと彩花の頬に触れる。
「そんなの驚くに決まっているよ!だって……あのたっくんが拓也さんだったなんて……」
「彩花……こんなガキの俺じゃ嫌か?俺はあの時からずっと彩花だけが好きだったんだけどな?」
「まさか。私、拓也さんがガキなんて思ったこと……んっ……」
俺は彩花の唇にキスし、言葉を奪った。
ようやく自分の今まで抱えて来た秘密を明かすことが出来た喜びのキスだ。
唇を重ねながら俺は彩花に囁く。
「彩花。今更だけど、プロポーズの返事聞かせてやるよ。勿論OKだ。彩花と結婚するよ。いいだろう?」
「うん……いいに……決まってるよ……」
彩花は涙ながらに返事をする。
「彩花……愛してる……」
俺は再び彩花の上に覆いかぶさり、身体を重ねた。
宮田教授、貴方の意思は俺が引き継ぎます。
彩花と結婚し……そして、この繰り返されてきた無限ループを断ち切る方法を何とか見つけます。
それが例え、俺の代で成せなくても俺の意思を必ず次の俺に引き継ぎます。
教授の死を決して無駄にしない為に――。
****
俺は眠りについた卓也に近付いた。
「それじゃ卓也。行ってくるからな?お前の代わりに……彩花を助けて来るよ。久々に彩花に会えるのは嬉しい反面、悲しみもあるが…‥俺はもう充分生きた。後は任せろ」
長年使っていた研究室を見渡した。
もう身辺整理は全て終わっている。大学には辞表を提出してあるし、明日には業者が来て、全ての荷物を処理する手配は終わっている。
ここに俺がいた痕跡はすぐに消えて無くなるだろう。
もともと、ここは俺のいた世界じゃない。幻のような存在だったのだ。
その幻がまた消えていくだけの話だ。
俺はポケットから若返りの小瓶に入った薬を取り出した。
これを飲めば、今の卓也と寸分変わらぬ姿に戻ることが出来る。
そして俺は瓶の中身を飲み干した。
1時間後――
「よし、問題ないな」
鏡の中には20代の俺が映りこんでいる。今の卓也と全く同じ外見だ。
「さよなら、卓也」
眠りに就いている卓也から磁場発生装置を外すと自分の腕に装着した。
「彩花と幸せになれよ」
すると、眠っているはずの卓也の口元に笑みが浮かんだ。
俺は研究室に眠っている卓也を残し、『時巡神社』へ向かった。
待ってろよ、彩花。
今、助けに行く。
必ず何があってもお前を守ってやるからな――。
<完>




