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終章 2 宮田教授からのメッセージ

「ほら、飲め」


宮田教授が俺の前にコーヒーを置いた。


「頂きます……」


早速コーヒーを口に入れると、妙に苦い。けれど折角教授が淹れてくれたコーヒーだ。チラリと教授を見るとPCを眺めながら平然と飲んでいる。

仕方なしに俺は苦いコーヒーを全て飲み切った。



「ごちそうさまでした」


マグカップをテーブルに置くと、教授がこちらを見た。


「上野、全部飲んだか?」


「ええ、飲みましたよ。でも何ですか?随分苦いコーヒーでしたよ?」


「でも飲んだんだろ?」


そして教授が俺を見た。


「ええ、飲みましたよ。ところで教授、先程から一体何をしているのですか?」


教授はPCに何やら先ほどから文字を打ち込んでいる。


「何、ちょっと準備をしてるだけさ」


「準備……?」


首を傾げた時、何故か強烈に眠気が襲ってきた。


「あ……れ……?」


一体突然どうしたのだろう?立っているのもままならず、俺は椅子に腰を下ろした。


「どうかしたか?上野」


教授が俺を見る。


「いえ……何だか…‥突然‥…」


もう返事をするのもおぼつかない。瞼を開けているのもやっとだ。

すると、教授が立ちあがってこちらへ向かって歩いてくる。


一体何だ……?


教授は俺の前に立つと言った。


「上野、ゆっくり休め。後のことは俺に……」


そこから先は何と言ったか聞き取れなかった。何故なら俺は完全に深い眠りについてしまったからだ――。



****


 

 次に目を覚ました時には、すっかり夕方になっていた。


「え?な、何だ?」


一瞬何が起こったか分からず、慌てて飛び起きるも教授の姿はそこにない。


「教授……」


その時、俺は気付いた。腕にはめていた磁場発生装置が消えているのだ。


「あ!な、無い!」


一体何処に行った?ひょっとして教授が……?

立ち上がり、宮田教授の机に近付くとPC画面は電源が付いたままだった。


「そう言えば教授は一体何をしていたのだろう……?え?」


PC画面を覗き込み、息を呑んだ。画面には文字が打ち込まれていた。


『上野卓也へ』


と――。


「俺宛てのメッセージ?」


PCの前に座ると、早速、画面をスクロールさせた――。



****



 上野。このメッセージを読んでいる頃は、恐らく俺はもうこの世にはいない。

実は今までお前には隠していたことがある。

驚かずに聞いてくれ。俺の本当の名前は『上野卓也』つまり、お前自身なんだ。


 俺は今から15年前の6月9日へ行く。お前自身に成り代わる為にな。

そんなおっさんが何言ってるんだと思うかもしれないが、実は俺の研究の中には若返りの薬の研究があるんだ。試作に試作を重ね、ようやく完成した。薬の効果は持って3日というところか?

だが、それ位あれば俺に何かあった場合でも警察の目くらましに位はなれるだろう。


 上野、お前は生きろ。俺が生きた58歳まではな。

そして……これは酷な頼みかもしれないが、お前が58歳になったら今度は卓也を助けに行ってやれ。その為の準備は全て終わっている。ここまで言えば分かるよな?お前は俺自身なのだから。


 さて、ここからが重要だ。

俺の妻の話を一度したことがあるだろう?妻と言うのは他でも無い。彩花だ。

あの日、俺の代わりに命を落とした彼のお陰で俺は彩花と結婚出来た。

尤も彼女は俺が38歳の時に、病死してしまったけどな。それはそれで幸せだった。


 どうだ?驚きだろう?だが話はそれだけじゃない。


 俺の前にも同じ役割をした上野教授がいたんだ。その教授から役を引き継いだのさ。そして全てを知った俺はお前に会う為にこの時代にやって来た。

そこでこの大学の教授になり、偶然を装ってお前に近付いた。

全てはこの日の為に。


だから上野。今度はお前がその役を引き継げ。新しい磁場発生装置は既に用意してある。お前がこれから向かう先は15年前の7月15日だ。

この日、彩花は静岡県に転居する。詳しい転居先はメモに残しておくからそれを見てくれ。


 上野、彩花と幸せになれ。

少なくとも、13年間は一緒にいられる。そして、出来ればずっと繰り返されてきたこの無限ループを断ち切る方法を見つけてくれ。俺の代では無し得なかったけれど諦めるな。

いつかは無限ループの呪縛から解放されて、誰も犠牲にすることなく幸せになれる方法を見つけてくれ。どうか頼むぞ。



上野卓也




手紙はそこで終わっていた――。




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