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終章 1 訪問者

「ふぅ……疲れた……」


時刻は午後6時を過ぎた頃だった。

まだ部屋の中にはオレンジ色の夕日が差し込み、室内は明るい。


「中々終わらないな~……」


元々1人暮らしで左程多くはない荷物。それなのにまだ荷解きの半分も終わっていない。

だけど、精神的に参っている今の私にはあまり動く気力にはなれなかった。


「夜御飯……作る気力出ないな……。引っ越し初日だし、コンビニのお弁当でもいいかな」


少し休憩しよう……。


部屋に置かれたパイプベッドに横になろうとした時……。



ピンポーン


不意に部屋にインターホンの音が響き渡った。


「え……?お客様?」


一体誰だろう?引っ越してきたばかりの私を尋ねて来るなんて。ひょっとして、ご近所の人だろうか?


玄関に戻り、何も考えずに扉を開けた。


「はい……え?!」


私はその人物を見て衝撃を受けた。


え……嘘でしょう……?


「彩花……久しぶりだな?元気だったか?」


少し照れくさそうに笑うその人は――。


「た……拓也さん……?」


「ああ、そうだ。俺だよ、彩花」


その声は変わらずあの人の声だった。


「そ、そんな……どうして……?貴方は死んだはずじゃ……あ、まさか!」


「言っておくけど、双子とかじゃないから」


私が言葉を紡ぐ前に拓也さんは答える。


「だ、だけど……ん」


最後は言葉にならなかった。

拓也さんが突然キスをしてきたからだ。ああ……私は、この人を知っている。

私の良く知っている……愛する拓也さんだ。


彼の首に腕を回すと、そのまま抱き上げられた。当然のように彼は部屋に上がり込み……いつものように私をベッドに寝かせると、私達は言葉を交わすことも無く身体を重ねた。


今迄会えなかった互いの隙間を埋めるかのように――。




****



 部屋の中はすっかり暗くなっていた。


私と拓也さんはベッドの中で寄り添ったままだった。


「……ねぇ、そろそろ……何があったか教えて貰ってもいいよね……?」


拓也さんの胸に顔をうずめながら私は尋ねた。


「ああ……いいよ。俺が知っている限りの話、全てを話すよ。彩花にとっては信じられない話かもしれなけれどな」


私の髪を優しく撫でながら拓也さんが耳元で囁いて来た。


「私、拓哉さんの言葉なら何でも信じるよ?だって、拓哉さんのことが……好きだから」


頬赤らめながらも頷いた。


「彩花……嬉しいよ。そう言って貰えると」


私の肩を抱き寄せ、一度キスしてくると拓也さんは語り始めた。


自分のことを。あの6月9日に何があったのか、その全てを――。


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