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第2章 135 さよなら、彩花

 15年前の6月9日――


 ついに、俺はこの日に戻って来た。天気はいつもと変わらぬ快晴。

磁場発生装置に記された運命ラインは彩花の死に直結している。

それを……今日、俺は塗り替えるのだ。


 腕時計を見ると、時刻は8時を指している。


「今から駅に向かえば余裕だな」


そして俺はこの世で見ることになる、恐らく最後の景色を焼き付けるかのようにゆっくり駅を目指して歩き出した。



 大丈夫、あいつがアパート近くに現れるのは9時過ぎだ。

彩花の姿が見つからなければ、あいつは諦めて駅に引き返してくる。それが繰り返された歴史だ。

あいつが現れたら、俺が身体を張って止めるのだ……。


拳をギュッと握りしめて、その時を待った。




「え…?う、嘘だろう?何故まだ来ないんだ……?」


彩花は時間に正確だ。いつも約束の時間10分前には現れるのに、何故か今日に限って現れない。


まさか……!


果てしなく、いやな予感しか無い。

俺は踵を返すと、アパートの道へ向かって駆けだした。




****


「え……?通行止め……?」


いつもアパートへ行く道は電線工事で午後まで通行止めにされていた。


「そんな……!今までこんなことは一度も無かったのに……!」


俺は急いで迂回ルートと記載された道を目指した。



「全く……今日に限ってこんな……」


少しでも先回りする為に狭い脇道を歩いていると、彩花と卓也の姿が路地の先に見えた。2人とも怯えた表情をしている。


まさか……!!



俺は急いで走って路地から飛び出した。


「彩花ーっ!!」


彼女の名を叫びながら。


「拓哉さんっ?!」


怯えた様子の彩花が卓也を抱きしめたままこちらを見た。


そして刃物を振りかざしながら襲ってくる、ろくでなし親父。

親父は俺を見ると怒りの声を上げた。


「またお前かっ?!」


親父は俺にターゲットを絞る。

そうだ……親父、狙うなら俺を狙え……!!


次の瞬間――。


ズンッと腹に焼けた鉄を押し付けられたような痛みが走る。

刺されたのだと瞬時に悟った。


「う!」


だが……俺はみすみす殺されるつもりは無い。

痛みに耐え、親父の顔面を蹴り上げたついでに腹も蹴り上げる。


鈍い音と共に、親父は白目をむいて地面に倒れこむ。激しい痛みで意識が朦朧とする。

俺は必死で彩花に声を掛けた。


「あ、彩花…ぶ、無事でよか…」


後は言葉にならなかった。もう立っていることもままならず、そのまま地面に倒れこむ。


「きゃああっ!拓也さんっ!」


「お兄ちゃんっ!」


2人の叫ぶ声が遠くで聞こえる。


「いやああああっ!!拓也さんっ!!拓也さん‥…拓也さん…しっかりして…」


彩花はボロボロ泣きながら俺に縋り付いてくる。


「お兄ちゃん…死んじゃやだよぉ…!」


卓也も真っ赤な顔で泣いている。


だが、俺はもう……。


「い…言った…だろ…?6月…9日は…晴れるって…」


「う、うん…晴れたよ…」


涙で泣きぬれた彩花が頷く。


「よ、良かった…彩花…今度…こそ、お、お前を…守れ…て…」


「拓也さん…?」


彩花は泣きながらも首を傾げる。だが、何も分からなくていい。俺の死により、彩花の運命は変わったのだから。俺は彩花の代わりに命を落とし、彩花はこの先も生き続ける。

泣きながら俺を見つめる卓也に声を掛けた。


「卓也…ご、ごめんな…。お、俺は…お前を…ゴフッ!」


その時、大量の血が口から溢れた。

卓也……お前を死なせてごめん……。


「お願いっ!もうこれ以上しゃべらないでっ!!」


「彩花…し、幸せになってくれ…俺の分まで長生き…」


それが最期の言葉になった。

俺はこの世で一番愛しい女性に見守られながら……人生の幕を閉じた――。

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